どんな疾患?
ウイルスによる肝臓の炎症性病変。
肝炎ウイルスが肝臓に侵入し増殖すると、急性肝炎が起きる。
短期間でウイルスが消えれば治癒するが、長期に感染が持続すると慢性肝炎に移行する。
急性期の症状は倦怠感、疲労感、食欲低下、黄疸などで、稀に重篤な劇症肝炎を起こすこともある。
何が原因?
肝炎ウイルスとして、現在までに8種類(A~G型およびTT型)が知られている。
特にB型肝炎ウイルス(HBV),C型肝炎ウイルス(HCV)の感染が多く、慢性化しやすいとされている。
どんな検査・治療をするの?
感染性(力)は、ウイルスマーカー(血液中のウイルス由来の抗原やそれに対する抗体、遺伝子)を
調べて判定する。
その他代表的な肝臓の検査項目として、血清トランスアミナーゼ(ASTおよびALT)やγ‐GTPなどがある。
治療には、C型肝炎ではインターフェロン療法を行うが、その他の肝炎では、主に内服薬を用います。
ウイルス性肝炎の感染経路と治療
ウイルスはどうやって感染するの?
B型およびC型肝炎ウイルスは、血液を介して感染する。そのため、ウイルスを含む血液の輸血、注射器
や注射針の共用、針刺し事故、あるいは、適切に滅菌されていない器具の使用、傷のある手指での患者
の血液への接触などが感染のリスクとなる。また、B型肝炎ウイルスは性交渉でも感染する。
以前は、母子間の感染がみられたが、現在は予防策により減少している。
どんな薬を服用しているの?
肝庇護薬(肝臓の機能改善薬)としてウルソデオキシコール、グリチルリチン酸、肝臓加水分解製剤などが
ある。また、抗ウイルス薬として、B型肝炎にはラミブジン、C型肝炎にはリバビリンを用いる。
ウイルス性肝炎患者の口腔
口腔への影響は?
最近、C型肝炎患者に扁平苔癬を合併する症例が多いとの報告があり、病因の一つとしてC型肝炎
ウイルスが注目されている。また、肝機能障害が進んだ患者では、血小板や血液凝固因子の不足により、
出血傾向がみられるので注意が必要。
ウイルス性肝炎患者と歯科衛生士
来院時に収集する情報は?
患者の全身状態の他にウイルスマーカーを必ず確認し、ウイルスの有無と感染力の強さを判定する。
処置の際に気をつける点は?
歯科での院内感染対策は、スタンダードプリコーション(すべての患者が何らかの感染症を有するという
考えに基づく対策)で行うが、ウイルスのキャリア(持続感染者)の場合はさらに徹底する。
治療時は必ずマスク、ゴーグル、手袋を着用する。使用した器材はすみやかに流水で洗浄し、
オートクレーブや煮沸を設定温度で15分以上行う。
加熱できない器具は次亜塩素酸系薬剤、あるいは2%グルタラール溶液に浸漬する。
消毒用アルコール綿による清拭のみでは不十分。
針刺し事故を起こした場合は?
肝炎ウイルス陽性患者に使用した器具で針刺し事故を起こしたときは、ただちに流水で血液を絞り出し
ながら傷口を洗浄し、ポビドンヨードで消毒する。患者がB型肝炎ウイルス陽性で、医療従事者がHBs抗体
陰性であれば、抗HBsヒト免疫グロブリンを事故後48時間以内に注射し、肝炎の発症を抑える。
またB型肝炎には予防ワクチンがあり、あらかじめワクチンを接種して抗体を獲得しておくと感染を
予防することができる。しかし、C型肝炎においては、予防ワクチンは確立されていない。
《感想》
このウイルス性肝炎でのキーワードはウイルスマーカー、院内感染予防対策、針刺し事故でした。
特に気になったのは針刺し事故です。以前のレポート発表のなかで、川崎医科大学の和田先生による
研修会での報告では、傷口を深くし危険であるということから、血液を絞り出さず洗い流し(石鹸使用)、
消毒液は使わないでした。今回の参考資料の対応では、血液を絞り出し、消毒液を使用するとなって
います。2009年1月の歯科衛生士の連載なので、最近の針刺し事故の対応について可能な範囲で調べる
と、事故直後の対応はさまざまでした。血液を絞りだそうという行為は有効性が証明されていないという
ことなので、それをする必要はないと考えられますが、まだ多くの医療機関で血液の絞り出しを
マニュアル化していることをみると従来どおりの対応も間違いではないのかとも思います。
衛生士 赤木