【根面う蝕ストラテジー】
参照:歯科衛生士2011.10月号「高齢期の根面う蝕のストラテジー」より
◆高齢期の根面う蝕の因子
●全身状態や生活 ●高齢者特有の口腔
①身体機能の低下 ①歯周病
②全身疾患&服薬 ②補綴物、義歯
③食生活 ③楔状欠損
④気力の低下 ④歯髄の変化
楔状欠損
○罹患部位が歯根であるため、もともとハイリスク
○歯根面が楔状欠損になっている場合、う蝕になりやすい
○すでに根面にある楔状欠損部分がう蝕になるとすぐに重篤な症状を示す
楔状欠損の要因
ブラッシング圧、歯ぎしりによる咬耗、噛みしめ圧迫症候群(DCS)etc…
◆根面う蝕と楔状欠損の発病と進行にかかる疫学的なコンセプト
予備期
1.歯肉退縮 ①初期退縮 ②中等度退縮 ③高度退縮
2.プラーク蓄積
3.咬合異常
4.口腔乾燥
5.加齢
第1期(初期)
1.初期根面う蝕 ①着色 ②白濁斑 ③ピンポイント状う蝕
第2期
1.中等度または進行性の根面う蝕。黄色または褐色の着色のあるう窩〔進行性のう窩〕
2.再発性う蝕
3.知覚過敏
第3期
1.進行性崩壊
暗褐色または黒色のう窩〔進行の停止したう窩〕
2.処置歯根面
3.環状う窩
対策と気をつけるポイント
エビデンスに基づいた情報を伝えて、フッ化物をうまく利用してもらおう
加齢による根面う蝕予防として、54歳以上の成人に対しフッ化物配合の歯磨剤を1日に2回1年間使用したところ、67%の予防効果があったと示唆されました。また、45~65歳の成人に対し、フッ化物配合歯磨剤とフッ化物洗口(225ppmF)を3年間併用した研究結果からも、同じく根面う蝕予防効果が見られました。
根面う蝕予防も一般的なう蝕予防と同様に、プラークコントロールに加えてう蝕抵抗性の高い歯質をつくることが基本となります。フッ化ナトリウムやフッ化第一スズといった歯質強化に加え、酸産生を阻害する効果があるフッ化物が配合された歯磨剤を、患者さんのセルフケアに取り入れてもらうよう指導します。同時に、プロフェッショナルケアでの高濃度フッ化物やフッ化物配合のバーニッシュ塗布も積極的に実施します。
根面う蝕を防ぐために、どうケアする?
◆セルフケア
●歯ブラシ・補助用具…露出根面に合う幅広のヘッド、歯肉や粘膜に毛先
が当たっても痛みがなく擦過傷にもならない軟毛の歯ブラシ
※高齢になるほど、単純な作業を心がけ継続してもらうよう指導
する。色んな種類のツールを使うより、個々の手指や視力の状態にあわせ、なるべく単純で習慣になりやすいものを。
●洗口剤…患者さんがセルフケアに協力的かつ継続できるようであれば、
抗菌作用のあるトリクロサンクロルヘキシジン洗口剤でブクブクうがい。
※ブクブクうがいは口腔体操(口筋力UP、唾液分泌量UP)を
兼ねるのでオススメ。
フッ化物配合歯磨剤との併用が効果的。
(『コンクール』は本来歯周病用だが、根面う蝕のセルフケアにも
評価)
●フッ化物配合歯磨剤…市販の歯磨剤でいい場合もあるが、根面が広範囲
に軟化しているものの経過観察としては研磨剤無配合のものをすすめる。
※蓋の開け閉めが困難な方には、量の調節もできるポンプ式容器
がオススメ。
●音波歯ブラシ…歯ブラシを細かく動かせない方に。
※歯ブラシの背が頬粘膜に当たってマッサージとなり唾液分泌量増加
も期待できる。
最近は軟毛のものも発売されている。
●ガム…義歯にくっつかないガムを使って咬筋を毎日トレーニングする。
噛む力の持続・刺激唾液の分泌量増加が期待できる。
※ガムを飲み込まないか医院で確認してからすすめるようにする。
●その他…セルフケアを継続してもらうためには患者さんの好みや選択を
尊重することも重要。
Ex.歯間ブラシやデンタルフロスがなかなか使えなかった患者さん。
根面う蝕のリスクが高いことを伝えると、自分でウォーターピック
を購入・使用されるようになった。
◆プロフェッショナルケア
●超音波スケーラーによる洗浄
高齢者の露出根面は非常に軟らかくなっている。スケーリングには超音波スケーラーを使用するが、刃を根面にはあてず、水の噴射だけで汚れを吹き飛ばすように除いていく。あるいはプラスチックチップやサスブラシの使用も考慮に入れる。
●ポリッシング
毛が細く軟らかいスクリューブラシ(スマートプロフィーブラシスクリューソフト)と研磨剤のないジェルコート(Concoolなど)でポリッシングを行う。ラバーカップを使うよりもはるかにソフトに磨く
ことができる。
●フッ化物塗布
前歯はフッ化物配合バーニッシュ(Fバニッシュ)またはフッ化物
配合歯面塗布剤が、臼歯にはフッ化物ジアンミン銀溶液(サホライド
等)が応用できる。Fバニッシュは本来知覚過敏対策の薬剤だが、
この場合はフッ化物の補填目的で使用する。塗布後は水を含ませた綿で洗う。
●デンタルフロス
高齢者にはスーパーフロスを使う。広くなっていることが多い歯間を効果的に清掃できるとともに、軟らかい根面に金属のスケーラーを当てるのを避けるために選択する。
●ブラッシング
染め出し液でどこにプラークがたまっているか、たまりやすい場所はどこかを把握してからブラッシングに入る。プラークのたまりやすい場所は患者さんにも伝える。(補綴物のマージンなど)
〈考察・感想〉
高齢の方だけに限らず、根面う蝕はよく目にします。
特に最近メインテナンスで担当している患者さんで立て続けに根面う蝕の治療を行う機会がありました。治療を要する前に、発生・進行を防ぐためには何ができるだろうと思い、今回レポートに取り上げました。
参考の資料には根面う蝕の因子として様々な要因がいろいろな方面から挙げられていましたが、私の担当している患者さんの例から今回は、“楔状欠損”を要因とする場合について詳しくまとめています。
★実践してみようと思ったこと★
◆プロケア(メインテナンス時)
○スーパーフロスを使用した清掃
→ポンティック下の清掃にしか用いていなかったスーパー
フロスですが、場合によってはこんな使い方もあるんだと
参考になりました。根面にはプラーク残存しやすいですが、歯間部の辺りはどうしても歯ブラシだけでは取り除きにくい部分もあり、スケーラーを用いて除去していました。フワ
フワとやわらかいスーパーフロスなら、スケーラーよりも
優しく清掃できそうなので、早速試してみたいと思います。
◆セルフケア(患者さんへの提案、オススメ)
○フッ化物配合歯磨剤(研磨剤無配合)
→カリエスリスク(根面う蝕に限らず)の高い患者さんには
これまでもオススメしていましたが、やはりう蝕の予防にはフッ化物の応用が基本だと改めて再認識できたので、状況に合わせて今後もオススメしていきたいと思います。
またオススメする際の説明も、今回のレポートの参考資料にあった内容を取り入れて工夫していきたいです。
衛生士 西内