スタッフレポート

2018年10月

「摂食嚥下のメカニズム」について、勉強会で発表して

摂食嚥下の5期  

1.先行期  食べ物を認識する    

  食べ物を口へ運ぶ前の段階。目の前にある食べ物の形や量、質を確認して、口へ運ぶ量や速さ、

  噛む力を判断し、唾液の分泌を促す。  

2.準備期  食塊を形成する    

  取り込んだ食べ物を飲み込みやすい形態に整えるため、口唇や舌、頬、歯、 下顎などを巧みに

  動かし、噛み砕いて、まとめていく。そこへ唾液を混ぜ合わ せることで、飲み込みやすい形状

  がつくられる。これを「食塊形成」という。  

3.口腔期  食塊を咽頭へ送る    

  準備期で形成された食塊が舌の動きにより少しずつ後方の咽頭へ送り込まれる。    

  この段階が、嚥下をスタートするきっかけとなる。  

4.咽頭期  食塊を食道へ送る    

  食道入口部が拡大し、咽頭に送られた食塊を咽頭周囲筋と奥舌で食道の入口へ 絞りながら送り込む

  という、まさに「嚥下そのもの」が起こる。このとき、食塊が食道以外の器官に入り込むのを防ぐ

  ため、さまざまな器官がはたらく。                                     

           ↓                

 (舌骨・喉頭・軟口蓋・喉頭蓋・喉頭前庭・声帯)  

5.食道期  食塊を胃まで送る    

  嚥下された食塊が食道の蠕動運動により、胃まで送り込まれる。食塊の逆流を防ぐため、ここでも

  さまざまな器官がはたらく。                 

        ↓

    (舌・軟口蓋・食道)

 

その症状、あの器官の機能に問題があるのかも?  

Q1:口腔内に食物残渣が多く残ってしまうのは、なぜ?  

 A:舌や頬の筋力が低下している可能性がある。      

  Check!・舌下神経麻痺などで舌の緊張性がなくなっていないか      

      ・舌の左右・上下運動が衰えていないか

      ・タ行やラ行の発音が悪くなっていないか             

Q2:食べ物がパサパサしてのどに引っ掛かるのは、なぜ?   

 A:唾液分泌量の低下が影響していると考えられる。      

  Check!・唾液の分泌は十分か      

     ・口腔が乾燥していないか  

Q3:唾液が垂れがちなのは、なぜ?    

 A:口唇に麻痺がある可能性がある。      

  Check!・口唇の緊張性がなくなっていないか       

     ・意識レベルが低くなっていないか   

Q4:口腔内に唾液が溜まってしまうのは、なぜ?    

 A:舌が麻痺している可能性がある。    

  Check!・舌の緊張性がなくなっていないか       

     ・意識レベルが低くなっていないか       

     ・唾液分泌を促す薬剤を服用していないか     

Q5:食べ物が口蓋に引っ付いてしまうのは、なぜ?    

 A:唾液分泌、舌の運動性の低下が考えられる。      

  Check!・唾液分泌は十分か       

     ・口腔乾燥はないか      

     ・舌運動は悪くなっていないか   

 

【感想】   

「食べること」にはさまざまな器官がかかわっています。舌の動き、口唇の動き、 顎の動き、唾液分泌

状態など、摂食嚥下に障害があるかを総合的に見ていく ことは容易ではないが、患者さんからの情報と

観察をもとに原因を探り、 スムーズな食事ができるようサポートしていけると良いと思いました。

                             衛生士 赤木

  2018/10/31   ふくだ歯科
タグ:摂食嚥下

「機能する細菌(歯肉縁上)」について、勉強会で発表して

最近の研究によって“病原菌”単独の働きによるものではなく、口腔常在菌の“協力(チームワーク)”によ

って、う蝕や歯周病が引き起こされることが分かってきました。プラークをお口の中の生態系と捉え、

細菌たちの“チームワーク”でう蝕や歯周病が起こるメカニズムを解説します。(生態学的プラーク説)

 

① プラーク中はどんな環境?

  歯肉縁上は常に唾液で覆われ、酸素も浸透しやすい環境です。食事の時には、糖などの栄養素が多量

 に供給されます。特に糖は細菌の栄養源として優れており、歯肉縁上には糖を利用してエネルギーを

 得て生きている多くの通性嫌気性細菌が生息しています。

② う蝕を引き起こすまで

  細菌たちが代謝すると環境に変化が起きる 

 歯肉縁上プラークにStreptococcusやAccinomycesといった細菌はすべて糖を代謝し酸を産生します。

 また、細菌の代謝にともなって環境中の酸素が消費されてしまうので、プラーク中は嫌気的になり

 やすくなります。

  頻繁に糖が摂取されるorブラッシングが行われないと、疾患が発症する

  糖を頻繁に摂取すると歯肉縁上プラークPHの回復が遅れ、PHの低い状態が続くようになります。

 これによって歯表面の脱灰も起きやすくなりますが、同時に細菌の酸生産機能を増強させることに

 なります。ただし、細菌が自ら創り出した酸性環境が細菌にとっても好ましい環境ではありません。

 酸性環境では重要な代謝酵素や遺伝子が変性し、死(酸性死)に至ることになるため、細菌は様々な

 対抗策を打ち出します。その結果、細菌たちは自ら創り出した酸性環境で生き延びることができると

 ともに、糖から酸を産生する機能が増強し、う蝕誘発能が高まることになります。このように酸性

 環境に応じて酸生産能の増強することを「酸適応」といい、酸適応によって酸生産能が増強すると、

 やがて脱灰が再石灰化を上回り、初期う蝕病巣が生じると考えられます。

  変化した環境で生き残る細菌が疾患を進行する

  一度う蝕病巣が確立すると、酸性環境はより持続するようになります。酸適応には限度があり、

 やがて酸性環境に弱い細菌から順番に、増強が阻害され、代謝が阻害され、酸性死に至ります。

 その結果、厳しい酸性環境でも増強し酸を産生し続ける細菌が生き残ることになります。酸性環境に

 耐える性質のことを「耐酸性能」といい、酸性環境が細菌の耐酸性能を応じて細菌を選択することを

 「酸選択」といいます。耐酸性能が高く、酸選択で生き残る代表的な細菌がMS菌やLactobacillas

 (乳酸桿菌)です。

  う蝕は多くの細菌が機能した結果

 う蝕は歯肉縁上という環境における細菌たちみんなの機能によって生ずること、すなわち、細菌の

 機能が環境を変え、それに細菌が適応する(酸適応)とともに環境をさらに変え、やがて環境によって

 生息できる細菌が選択される(酸選択)ことでう蝕が進行します。このう蝕プロセスでは、歯肉縁上

 プラークに生息するどの酸性生菌であってもう蝕発症に関わると考えられ、言い換えると、細菌の

 種類ではなく、細菌の機能が重要であることが分かります。

 

〈まとめ〉

  う蝕を初期段階で食い止める方法の一つとしてプラーク内の酸性環境が持続しないようにすることが

 大切です。1日に数回の食事で一時的に酸性環境になることは避けられませんが、間食の食べ方や

 ブラッシングに注意し、適切にフッ化物を用いることで、う蝕の予防は可能です。

                               衛生士  関口

  2018/10/24   ふくだ歯科
タグ:虫歯予防