離乳期に注目!歯科医院でかかわりやすいチャンス5
日ごろ生活を送るうえで口腔機能が意識されることはありませんが、離乳食期に感じるさまざまな
困りごとこそ、保護者が初めて口腔機能を意識する機会だといえます。
① 噛まない、丸のみする
この主訴で来院する乳幼児の口腔内を診ると、必ず上下の乳前歯以上の歯が萌出しています。保護者は
「前歯が上下生えているのに噛んでくれない。どうしよう。」という気持ちで来院されるようです。
「噛まない」という場合には、一見、「食材を硬くしたら噛む」とか「軟らかいから噛まない」と思い
がちです。実は、食感の異なる材料や海藻類、小魚や食物繊維が多く含まれるものは、口の中に入ると
自然と噛む回数が増えます。ご飯には、しらすでもひじきでも昆布でも、食感の異なる物を混ぜるだけ
で咀嚼回数は変わります。
② 仕上げ磨きが苦手
仕上げ磨きを嫌がるという場合、単に息苦しさが理由であることもあります。乳幼児期の呼吸回数は
成人の約2倍で、嚥下回数も成人よりはるかに多いのです。 子どもは、歯ブラシを近づけると自然と
息を吸い、歯ブラシが口の中に入ると息を止めたり、鼻呼吸をします。そして、口から出すと嚥下し、
息を吐きます。これを利用し、歯ブラシを口に入れてる間、数を数えてみましょう(年齢+2秒が目安
です)。こうすることで、術者が子どもたちの呼吸をコントロールしてあげることになるのです。
このように、歯ブラシの出し入れと呼吸指導を繋げることで、仕上げ磨きを、スキンシップやう蝕予防
はもちろんのこと、機能の発達にも繋げることができます。歯科医院にう蝕の治療に来て何もできない
子に対して、歯ブラシによるブラッシングからスタートすることは非常に重要です。カウントしながら
の仕上げ磨きは、呼吸指導に繋がるだけでなく、タービンやコントラでの治療や予防処置にも繋がり
ます。
③ 口の中に溜め込み、飲み込まない
手全体で物をつかんでいた赤ちゃんは、下の乳前歯が萌出すると、手指が動くようになります。さらに
上の乳前歯が生え揃う時期になると徐々に手指を使って食べ物を口に近づけようとしますが、思うよう
に口の中に入れられず、遊び食べとなり、やがて上手に手づかみ食べができるようになります。
手づかみができるようになると、「食べやすいように」と“一口サイズ”のおにぎりを用意する保護者が
非常に多いです。ただし、この“一口サイズ”は保護者が考えた大きさです。もしそれが口より小さい、
または口と同じサイズだった場合、子どもは詰め込んでしまいます。その結果、多くの乳幼児が次々と
口の中に溜め込んで、飲み込めなくなったり、溜め込みすぎて、えずいてしまうのです。 この場合は、
まず保護者がコンビニおにぎりと同じ大きさくらいのおにぎりを食べるところを見せた後(模倣)、
子どもにかじらせます。この時子どもがかじった量、これがまぎれもなくその子の“一口サイズ”なの
です。一口量は親が決めるのではなく子どもが自ら決めるのです。そのため、かじれるように、口より
大きなおにぎりを作ってもらうのがポイントです。
④ 上顎乳前歯が萌出しているのに、上唇が山型のまま 歯がなく乳児嚥下しかできない新生児や乳児の
多くは山型の上唇をしていますが、舌や口唇機能が発達するにともなって、次第に上唇が平たく口角が
上がるような口元になっていきます。上顎乳前歯が萌出しているにもかかわらず、いまだに「山型の
上唇」のままの乳幼児は、口腔機能の発達不足が疑われます。 山型の上唇をした子では、食事の際、
上唇を使わずに(捕食せずに)食べていたケースが少なくありません。その場合、上唇を使ってまず捕食
をし噛みちぎり、口唇を閉じて咀嚼・嚥下することが重要です。上顎Bが萌出していれば、すでに
手づかみ食べを始めている前後の時期ですが、スプーン食べに戻って、口唇を閉じる動きを練習し直す
のも一つの方法でしょう。
⑤ 保護者がストロー飲みをさせたがる
口腔機能の発達上は、ストロー飲みは必要ありません。舌まで届くストローで飲むことで、舌を前に
出して飲む乳児嚥下が持続され、大切な成人嚥下機能を学習する機会を奪ってしまいます。 また、離乳
食期における最も重要なことは、D(第一乳臼歯)の萌出までに内舌筋を鍛え、嚥下圧を鍛えることで、
これは口蓋形成にも繋がると考えます。内舌筋や嚥下圧は、捕食したりコップから飲もうとする際に
培われます。コップ飲みの際に口唇を丸く包む動きをすると、自然と舌も丸くなりますが、この舌を
丸める動きや食塊形成としてはたらく舌の形を変える動きが内舌筋の動きです。内舌筋の働きによって
舌のボリュームが増し、舌圧(嚥下圧)に関与するのです。 保育環境などの事情からストロー飲みの必要
性がある際には、上顎Aが萌出したら、家庭では少しずつコップ飲みの練習を始めるとよいでしょう。
まずはスプーンで啜って飲む練習から始め、おちょこ、小さいコップなどで徐々に飲む練習を進めて、
内舌筋を鍛えましょう。
〈感想・まとめ〉
口腔機能の発達についての知識が少なく、これまで指導したことはありませんでしたが、レポートした
内容で悩まれている保護者の方は多いと思います。むし歯から口腔内を守るだけでなく、さらに広い
範囲でサポートしていけるよう、勉強していきたいです。
衛生士 関口