★炎症の原因をつきとめるには、患者と歯肉の十分な観察を!
どんな疾患においても、原因や病理的特徴、細菌学的特徴、免疫学的特徴、遺伝学的特徴などを把握することが重要。それにより診断や治療に必要な情報を得ることが出来る。
原因や特徴を把握するためには①病歴(医科・歯科)の収集
②歯肉の症状・サインの読み取り
③病理検査(症状により行わない場合もある)
の3項目を行う
①「患者を知る」は歯肉を診るうえで欠かせない
歯肉に影響を及ぼす全身疾患や薬物などの知識をどれだけもっているか、そして
病歴等の患者の情報をどれだけ収集できるかがカギ。
〈歯肉に影響をもたらすもの〉
*プラークに起因する歯肉炎の場合
・ホルモン動態の変化(妊娠性の歯肉炎、思春期性の歯肉炎)
・薬物
・全身疾患…糖尿病、アレルギー(金属、アマルガム)など
・栄養状態
*プラークに起因しない歯肉炎の場合 *その他
・特定の細菌 ・食べ物(チューイングガムなど)
・ウイルス ・化学物質(歯磨剤、洗口剤など)
・真菌 ・物理的損傷、怪我、温熱刺激
・遺伝的
②細部まで見逃さないで!歯肉の症状・サイン
*歯肉溝の温度…34℃前後
*色調…コーラルピンク色(サンゴ色)が通常だが、色素沈着のある場合もある。
黒人では歯肉の色素沈着は通常みられるもの。
*きめ…引き締まっている、抵抗性がある。
*歯肉の外形…歯間乳頭部の歯肉はその空隙をうめている。
歯肉辺縁はスキャロップ型あるいは平坦なタイプのこともある。
*出血…プロービング時に出血を認めない
*歯肉溝からの浸出液…最小限
★歯肉の症状・サインの観察ポイント
①歯肉の炎症の広がる方向、波及する部位
→炎症部位が拡散されて、大きな範囲に広がっていくことがある。
炎症の波及は、組織の比較的抵抗性の少ないところから進行していくのが常。
みえている炎症のサインの局所に必ずしも原因が潜んでいるわけではない。
②歯肉の炎症の範囲
→必ずしも炎症の範囲が広いからといって重症とはいえない。
限局した歯肉炎でも、急激に進行するものもある。
なぜ範囲が限局しているのかを考えることも大切。
ex)上顎前歯に限局…補綴物の辺縁の不適合、口呼吸、口唇の安静時の閉鎖状況等
③炎症や違和感の期間
→問診により、違和感に気付いた時期、その期間、違和感や疼痛の程度と頻度などを確認する。
※多くの場合、初期の歯肉炎では自覚症状が希薄。
ブラッシング時出血をみたときに初めて異常に気付くことが多い。
④炎症の程度
→判定にはいくつかの方法がある。いずれかの方法を用いて進行の程度をみていく。
ex)Gingivalindex(GI)、BOPなど
⑤歯肉のきめ:硬さ、軟らかさ
→歯肉の色調やきめの状態(硬い、軟らかい)を把握して記録する。
※プローブ側面を歯肉に平行にあてて周囲の組織の可動性や、最小限の組織の圧迫によってできる貧血帯を調べるという方法がある。
⑥疼痛・違和感
→患者の言葉そのままの訴えを記録し、比較して診療に役立てることが大切。
疼痛や違和感が持続的なのか、間欠的なのかも把握する。
⑦出血傾向
→プロービング時の出血は、疾患の活動性を判断するうえで非常に重要。
プロービングなしに自然出血している場合も見逃してはいけない。
※持続的あるいは間欠的な自然出血では、全身疾患の存在が考えられる。
ex)白血病などの血液疾患や抗血液凝固剤の使用、肝疾患、消化器疾患など
※心内膜炎の既往を持つ患者や人口ヒップなどの装置を最近装着した患者では、感染の配慮からプロービング自体が禁忌。
・・・サイン、症状を把握するためには、これら(①~⑦)の臨床的観察に加えて、ポケットの深さ、歯肉退縮の様相、歯の動揺度、エックス線写真などによる検査も行う。
★症例で再確認!歯肉炎の症状・サインの読み取り
〈矯正治療で臼歯にバンドを装着する必要があるため、歯周病科に紹介された患者〉
①臼歯間に歯肉の発赤と腫脹を認める。特に口蓋側に顕著。
②ほとんど臼歯に限局している。したがって局所に原因があると考えられる。
③患者による申告では違和感は訴えなかった。したがって罹患時期などの把握はできなかった。
④エックス線写真により歯根の近接状態を認める。したがって早急になんらかの処置を施さなければ、歯槽骨の吸収はすみやかに進んでいくことが考えられる。
⑤軟らかい組織の様子から、比較的時間が経過していないと考えられる。
⑥自覚症状がなく、患者による訴えはなかった。
⑦プロービングにより易出血性を示した。
・・・以上のことから、本症例では、すみやかに確実なプラークコントロールができる環境、これ以上の症状の悪化を防ぐ環境に整える必要がある。
そのため歯周外科処置で歯肉の形態を調整する。
《感想・考察》
患者さんの状態はいつも同じではありません。その時々で常に変化しています。
また同じ口腔内でも部位によって異なり、症状の出る背景には全身状況や心理的要素も
深く関わっています。
目で観察できることは限られていますが、そのサインや症状は身体が出している重要
な情報だということを頭において、患者さんへの対応に活かしていきたいです。今回の
レポートでまとめたような情報を、正しく認識して日々の診療に役立てていきたいと思
います。
衛生士 西内