スタッフレポート

スタッフによるレポートを掲載しています。

パニック障害について、勉強会で発表して

パニック障害とパニック発作   

パニック障害は「不安障害」と呼ばれるカテゴリーに分類される      

       主症状は「不安」の強い形である「パニック発作」   

パニック発作は「不安発作」や「恐慌発作」などと呼ばれる      

       典型例では発作は、突然に始まり、数分間で消失する

       パニック発作にみられる症状

        ・動悸 ・胸痛 ・息苦しさ ・窒息感→過呼吸(過換気)

        ・非現実感  ・死の恐怖

           ・自制心の喪失への恐怖/発狂する恐怖  など

    パニック障害は上記のような発作が1か月の間 に数回起きるもので、診断 に至るにはさらに

       いくつかの条件がある ケースによって発作の頻度 程度は異なる

      パニック障害の診断の条件

       ・パニック発作が1か月の間に数回起きる

       ・発作の出現に特徴がある(発作の出現が予想できない)

       ・うつ病や他の精神疾患、さらには心臓疾患や内分泌代謝疾患 など(パニック発作が

        付随して生じることがある疾患)を 罹患していない

治療

 「発作のコントロール」が主となる

  ① 発作を起きにくくする

   状況に関係なく起こる発作は薬物療法が用いられることが多い

  ② 発作出現時の対処

   安心できる静かな場所に身を置く

   周囲は見守りつつ「もう少ししたら治まるからね」など、回数や頻度に注意し声をかけ治まるの

   を待つ 「どうしたの?」「大丈夫?」など焦らせるような声かけはNG

   過呼吸時の対処

   ・ペーパーバック法

     過呼吸により二酸化炭素が過剰に体内から出ると、血液 中のイオン(電解質)バランスを

     崩す要因となる。この 二酸化炭素の流出を回収するために、何らかの袋(ペー パーバック

     など)を用い、呼気をそのまま体内にもどす こと

   ・ゆっくり少量小刻みに水を飲ませる(筆者)          

 歯科医療現場でできること

 ① 理解を示して安心感を与える

  「よく来てくれましたね」

  「こちらでできることはやってみます」

 ② 対処方法を考えて提示、実践する

  「身動きが取れない状況」が苦手。いつでも中断できる ことを提示し、一回の処置を短めに

  工夫する

 ③ 発作時には慌てないで対処する

  スタッフが慌てると患者さんはさらに焦る

感想  

「パニック障害」という言葉を日常でもよく耳にするようになりました。実際には発作を起こしている

場に遭遇したことはありません。そして、パニック発作が出やすい人は見た目ではわからないので、

医療現場では患者さんがどのような不安を持っているかなど理解を深めていく必要があるとおもい

ました。

                     衛生士 赤木

  2022/03/21   ふくだ歯科

「噛むの効用」について、勉強会で発表して

Part1:噛まなくなった現代人

仕事・家事・育児に追われて忙しい日々を過ごしている現代人には、空腹を満たす食事は何の変哲も

ない日常の習慣なのかもしれません。しかし時間に追われて早食いになると、咀嚼の回数が顕著に減少

するため、食べ物を歯で噛み砕き、舌で唾液と混和して十分に食塊を形成しないまま飲 み込むように

なります。人間の食べ方は、小さいころからの食習慣とそれに伴う口腔機能の発達が影響しています。

幼少時より成長の過程でほとんど噛まなくてよい食事が習慣化すると、いわゆる「流し込み食べ」と

いう食べ方が身についてしまいます。学校給食の現場でも問題になっており、給食を牛乳で流し込んで

食べる子どもたちが増えていると言います。

・平均620回

これは現在日本人が一食あたりに要する咀嚼回数です。昭和初期には平均1420回咀嚼していたと言われ

ているため半分以下に減っていることがわかります。さらに時代をさかのぼると江戸時代には平均1465

回、鎌倉時代には平均2654回、弥生時代には平均3990回と報告されています。

・噛まなくなったことで、形態・機能にも影響が出ている

最近では、「飲む〇〇」といった食品をよく耳にします。時間がなくても手軽に空腹を満たせる食品と

して働き盛りの若年層を中心に人気があります。エネルギーも栄養もすべてが飲料、ゼリー、錠剤と

して飲み込むことで、食事の時間ロスをなくそうという発想でコマーシャルされています。これらの

商品こそ、咀嚼を必要としない究極の食事(嚥下食)です。嚥下食は、脳血管障害の後遺症などで

うまく噛めない人が代替として摂取する補助栄養や介護食の位置づけであれば納得できますが、噛める

人が噛まずして飲み込むだけの食習慣として定着すると、知らないうちに咀嚼機能が退化していき、顎

は十分に発育せず、生じた顎の発育不全が次の世代に継承されます。その結果現代人では、骨格は華奢

で細長い顔貌となり、虚弱化した口腔の形態的ならびに機能的な異常が増えているのです。

Part2:「噛む」の効用をエビデンスで知る

①唾液の分泌を促進する

・唾液には食塊形成を補助する役割がある

・唾液は食物の消化をサポートし、胃の負担を軽減してくれる

・唾液の味覚を敏感にするはたらきによっておいしさが増す

②脳を活性化する

・咀嚼で記憶力や集中力、判断力が高まる

・咀嚼は学習効果に影響する

・咀嚼は認知症高齢者のQOLを改善する

③生活習慣病を予防する

・よく噛んで食べると食後の血糖値の上昇を抑制できる

・咀嚼回数は高齢者の食事満足度が得られやすい

④誤嚥性肺炎を予防する

・嚥下直後の食塊形成は誤嚥性肺炎の発症に関連する

・咀嚼回数と嚥下直前の食塊は嚥下に影響する

Part3:DHにできる『噛む』へのアプローチ

①食塊形成の重要性を理解してもらう

 十分な食塊形成を行うには、歯だけではなく、唾液と舌の運動も大切な要素である。

②薬がうまく飲めているか確認する

③食生活(習慣)を把握して咀嚼の指導につなげる

歯科衛生士が『噛む』を支える存在になれる

よく噛んで食べるか、噛まずに食べるか、同じ料理でも人によって食べ方は様々です。食べる食材に

よっても食感やおいしさを感じる咀嚼回数、または適度な食塊形成にふさわしい咀嚼回数は異なり

ます。30回以上噛んで食べよう!と回数に固執しすぎると、せっかくの食事も楽しくなくおいしさも

半減するでしょう。よく咀嚼するのが食事のすべてではありませんし個人差もあるので無理強いする

ものでもありません。一方で、高齢者が多くなった今、歯科医院に通院する患者さんの中には、早食い

の習慣から誤嚥や窒息した既往歴のある方や、咀嚼したいものの口腔機能の低下が原因でうまく噛めず

に苦痛を感じている方がいるのも事実です。 歯科衛生士の皆さんには日々の診療の中で、患者さんの

口腔機能と全身の健康に関連する食事や服薬の関係について考えたり見直したりするきっかけ作りを

していく必要があります。そのためには、「食事はよく噛んで食べていますか?」「薬はうまく飲めていますか?」など些細な一言を患者さんに向けてみることが大切です。

感想

私自身もあまり咀嚼せずに食事をする癖があります。噛むことはいいことがたくさんあり将来の自分

自身の健康につながるので意識して習慣づけていきたいと思います。

                         衛生士 藤元

  2022/02/23   ふくだ歯科
タグ:噛む

「ネクストビジョンのセミナー」に参加して

1. 操作感(一連の流れ)

・無影灯感覚で軽い操作感 ・ポジショニングが自在で立位でも使える

・ゴーグルやフェイスシールドをつけたまま使える

 →拡大映像がモニターに表示されるので、マイクロとは違い、のぞかなくても情報が得られるので

  診療中に姿勢を崩すことなく、見たい部位を的確に捉えることが出来るので、肩こりや腰などを

  痛めるリスクも減ります。

2. アシスタント

・先生の動きをモニターで共有できる

・口腔内とカメラの距離がある=バキュームとカメラが干渉しない

 →術野と患者さんの表情を見ながら拡大映像を確認し行えます。治療内容が見えることはアシス

  タントにとってストレスが少なくなるだけでなくDr.と一緒に治療しているとより感じられ、

  仕事のやりがいにも繋がります。

3. スケーリング ・術者ごとに視度調整をする必要がない

・慣れていない人でも誰でも使える

 →下顎の舌側は患者さん目線では見えづらい所ですが、スケーリング前と後の写真を撮影しモニター

  で確認してもらうこともできます。 歯石がどれだけ付いていたか舌で触ってみて確認してもらう

  ことも、もちろん大事ですが、視覚的に確認してもらうとより分かりやすいです。 開口量が少ない

  患者さんでも、ネクストビジョンは適応でき、実際にSRPをしているのを患者さんに見せることも

  できます。 上額の臼歯部や口蓋側は鏡でも見えづらい所なので、実際の治療はどういうことをして

  いるのか、歯石や不良肉芽の除去をしているのかがわかります。

4. カリエス部位を撮影

・衛生士側からカリエス部位を口頭で説明しても患者さんは納得しづらく、ましてやベテラン衛生士に

 比べて経験の浅い衛生士が言うのとでは説得力が違います。写真を撮ることで、見えづらい角度から

 も撮影することが出来るので、Dr.が説明する前に衛生士から明らかな説明ができるので患者さんとの

 信頼関係が築けます。写真もその場で撮影ができるので患者さんは寝たままで、口を開けてもらう

 だけです。

・臼歯部も唇側、舌側どちらからでもスムーズに撮影できます。鏡では見えづらいものが、30倍と60倍

 に設定して撮影することによって患者さんの理解度が大きく違います。

・カリエス部位だけでなくインレーの不適なども撮影でき、記録として残せるので、メンテナンス中に

 撮影し最後にDr.にも確認してもらい、次回の治療計画を立てることができます。

一眼レフロ腔写真

・自分と患者さんを動かして撮影

・重たい一眼レフを片手で持つ負担

・慣れるまで2人で撮影する、患者さんの協力が必要な為負担が大きい

ネクストビジョン

・患者さんは寝たままでOK ・片手で軽く操作でき、シリンジも使える

・画質が綺麗

 撮影(picture モード)、動画(video モード)はフットペダルでできる

 ※NVのライトの明るさは10段階あり数字が高いほど明るい

 FLIP(上下回転)とREV(左右回転)があるので患者さんは寝たまま、術者は座ったままで撮影が可能  

5.TBI(模型あり)

・モニターで見せ、納得度UP ・客観的に理解できる

・手鏡で見るより、患者さんも見やすい

 →臼歯部や舌側、口蓋側など見ることが難しい部分や開口量が少ない患者さんはずっと口を開けて

  いるのが大変なため、TBIが大変です。 ネクストビジョンは撮影した写真をすぐに大きなモニター

  で見てもらうことができ、見えにくい場所のプラッシング状況をすぐに理解してもらえ ます。

6.TBI(模型なし)

・ブラシの動かし方も教えやすい

・ホームケア促進=医院の売り上げに貢献

・衛生士自身のモチベーションもUP

 →プラークが残りやすいことを指摘し、上手に磨けるようになる為の方法を動画で撮影して伝える

  こともできます。 磨けているつもりでも磨けない原因は患者さんごとで異なり、患者さんに共通

  するブラッシングしにくい部位もあるので、写真や動画で撮影すると明らかにわかります。個々

  の患者さんにあった効果的なブラッシング指導に役立ちます。

 

〈感想〉

ネクストビジョンの活用法は、主に治療やSRPに使用するのがメインだと思っていたので、TBI時にも

どんな風に活用すれば良いのか知れて良かったです。 補助についているとき、特に左側の治療はどう

治療しているのか見えなくて、次に何をすべきか把握しにくいこともありますし、患者さんに虫歯の

説明をするとき鏡だとどれだけ工夫しても伝わりにくいこともあるので、モニターで直接見れるのは

とても良いと思いました。

                             衛生士 星島

  2021/12/31   ふくだ歯科

高齢者の根面う蝕について、勉強会で発表して

*歯冠う蝕と根面う蝕の違い

 歯冠部はエナメル質と呼ばれる酸に溶けにくい硬い組織で覆われて守られていますが、 歯根部は

 エナメル質に覆われていません。そのため、酸に溶けやすく、虫歯になりやすいだけでなく、虫歯の

 進行も早いのです。

 象牙質が虫歯になりやすい原因は…

 ① 象牙質は臨界phが高く、酸に溶けやすいから

  エナメル質はph5.5より低くなると溶け始めます。一方、象牙質の臨界ph6.0~6.7程度でエナメル質

  よりも酸に溶けやすい性質があります。

 ② 象牙質は有機質が多いから

  エナメル質は約95%が無機質で、有機質は1%程度であるのに対して、象牙質は無機質が約70%、

  有機質が約20%で構成されています。そのため、象牙質はエナメル質に比べて軟らかいのです。

  無機質が溶けて、残った有機質の隙間に細菌が侵入してたまることで、虫歯の進行の原因に

  なります。

 ③ 表面に象牙細管が開いているから

  象牙質の表面には、象牙細管があります。そのため、象牙質では、象牙細管を通じて象牙質内部に

  最近が侵入したり、酸が入り込んできます。根面う蝕の進行が速いのは、象牙細管の存在が大きく

  かかわっていきます。

 

*高齢になるとなぜ根面う蝕になりやすいのか

 お年を重ねると、何らかの薬を服用されている方も徐々に増えていきます。薬のせいだけではあり

 ませんが、唾液の出が少なくなる副作用がある薬も多く、ご高齢になるとお口が乾く方多くいらっ

 しゃいます。 唾液には、虫歯から歯を守る作用があります。そのため、口が乾き、唾液が少なくなる

 と、歯根部に虫歯が多発したり、急激に進行することがあるので、注意が必要なのです。

 ① う蝕から歯を守る唾液が減少するから

  唾液は、虫歯菌によって作られた酸を中和して歯を酸から守る(緩衝作用)だけでなく、酸に

  よって溶けて歯を元に戻す(再石灰化)力があり、この2つの力で虫歯から歯を守っています。

  お年を重ねると自然と唾液の出が少なくなったり、薬剤の副作用で唾液減少が起こることが多く

  あります。歯を守ってくれていた唾液が減ってしまうことで、これまで以上のケアが必要に

  なります。

 ② 口腔内の水分保持が難しくなることも

  お口の周りの筋力が低下することで、お口の中全体に唾液が行き渡らなくなったり、唇を結び

  づらいためにお口に中の水分が蒸発しやすくなることでも口腔乾燥が助長されます。 そのような

  場合は口腔周囲筋の筋訓練をするといいでしょう。

 

*根面う蝕のリスクファクター

 歯根部の虫歯は歯についたプラークが原因です。プラークが残っていたり、砂糖を含む食品を何度も

 摂取することで、虫歯になりやすくなります。また、唾液の量が少なくなればさらになりやすく

 なります。

 ① 歯周病によって歯肉が退縮することが一番のリスク

  歯周病などで歯茎が下がって歯の根元が露出してしまうと、歯茎で覆われていた象牙質が酸に

  さらされ、歯を溶かして、歯の根元の虫歯ができてしまいます。

 

*根面う蝕予防のためのセルフケア

 ①フッ化物配合の歯磨剤を使用する フッ素入りの歯磨剤を使って、力を入れすぎないように、丁寧に

  ブラッシングすることが重要です。ブラッシング後のすすぎは、できるだけフッ素が多く歯に

  留まるように、1~2回程度に少なめにするといいでしょう。また、虫歯になりやすい方は、

  ブラッシングに加えて、フッ素を含む洗口液を用いると予防の効果があります。

 ② 隙間ができた歯の間の清掃には歯間ブラシを 根元の部分に関して、歯と歯の間では、デンタル

  フロスよりも歯間ブラシのほうが効果的です。歯間ブラシはサイズの合ったものにフッ素入りの

  歯磨剤をつけて使用するといいでしょう。

 

感想

根面う蝕にはプラークも関係しているが、唾液の量も深く関係していることがわかりました。高齢に

なると唾液の量は少なくなっていきますが、服用している薬の副作用によっても唾液が減少してしまう

ので、服用している薬を把握したうえでTBIなどに繋げていくことが大切だと思いました。

またこれから暑くなり水分補給がたいせつな季節になるので、熱中症予防とからめて水分補給を

しっかりしてもらうことで口腔乾燥予防から根面う蝕の話を伝えていけたらいいなと思いました。

                        衛生士 岡崎

  2021/11/14   ふくだ歯科
タグ:虫歯予防

「なぜ、ここだけ歯周炎が進行したか?局所的な骨吸収の背景にある力の影響」について、勉強会で発表して

力がかかわる口腔内のトラブル

 メインテナンス期間に歯を失う原因の1位は、歯の破折。原因は力。

 DHは、細菌のコントロールとともに「口腔内に生じる力」を捉える知識と技術が必要。

  代表的な現症

   ・歯冠破折

   ・咬合面、切端の咬耗、金属の皺・補綴装置の破折

   ・歯頚部の楔状欠損

   ・フェストゥーン、クレフト

   ・マイクロクラックによるう蝕

   ・骨吸収(CASE1~3)

 CASE1.最後臼歯近心の垂直性骨吸収

  歯根膜組織で炎症性サイトカインが生産される影響で、歯根膜腔が拡がる。炎症性サイトカインの

  生産に至る原因は、「細菌感染」と「力学的負荷(矯正力、ブラキシズム、咬合性外傷)」。咬合調整が

  必要なときがある。

 CASE2.欠損歯があり、他の歯に負担がかかる  

  過度の加重負担のため骨吸収が進行。

  隣在歯や対合歯との関係をよく観察して、広い視野と細かい観察眼を持つようにする。

  根分岐部だけで骨吸収が進行することもある。(臼歯に過度な力がかかり続けると、歯をねじるよう

  な力が加わると考えられ、根分岐部に応力がかかり、同一の歯でも近遠心より歯槽骨の吸収が進行

  する場合がある。)

 CASE3.上顎小臼歯の骨吸収

  犬歯は、ギリギリと水平的に動かす側方運動を受け止めている(それを受け止める骨量を有して

  いる)が、八重歯の方や、年月を重ねて飛び出た犬歯がこすれて上下の歯が近づいている方など、

  犬歯による下顎側方運動時の誘導ができない場合、隣在歯がその役目を担うことになる。犬歯の

  代わりに側方運動を受け止める上顎小臼歯は、歯根が短く力の影響を受けやすい。

 部位による現症の違い

  歯周炎が起きている部位に外傷性咬合が加わると、歯根膜腔が拡大し、血管透過性の増加、破骨

  細胞の活性化によって骨吸収が起きると考えられる。その結果、骨が薄い部位は歯根が露出し、

  骨が厚い部位は垂直性骨欠損になる。

  歯周病や咬合性外傷は長期的なもので、どちらが先に発症したのかわからないことも多い。

  歯の動揺が増加している場合や、動揺により患者さんの機能障害がある場合は、歯科医師の診断を

  共有することが必要。 

 

感想

最近の診療では、歯や顎に加わる力の影響により、痛みや炎症、動揺を確認することが多くなったよう

に感じる。力と炎症の両方をコントロールし、今ある歯を快適に長く使って頂けるように、衛生指導、

SRPを行っていきたい。    

                          衛生士 岡本

  2021/10/17   ふくだ歯科
タグ:骨吸収

「歯周病発症のきっかけ」について、勉強会で発表して

〈鉄分とPg菌〉

レッドコンプレックス(特にPg菌)には栄養素として鉄分が不可欠である。Pg菌は、血液中のヘモグ

ロビンからヘミン鉄を手に入れる。しかし、健康な歯肉溝や出血を伴わない歯周ポケットには血液が

ないため、ヘミン鉄を摂取できない。この栄養不足の状況下では、Pg菌は歯周組織に定着していても

増殖することは難しい。増殖できても病原性は低いため、歯周炎は起こらない。

〈歯周組織を感染から守る上皮細胞〉

上皮細胞はバイオフィルム細菌から歯周組織を守る物理的障壁であるとともに、細菌の栄養となる成分

が歯周組織から歯周ポケット内に滲出するのを防いでいる。また、上皮細胞表面の自然免疫レセプター

が細菌を感知し、上皮細胞から免疫物質や抗菌物質が分泌される。

〈プロービング時の出血は上皮細胞が壊されたサイン〉

口腔清掃不良、あるいは宿主抵抗力の低下によって歯周組織に炎症が生じると、歯肉内縁上皮細胞が

剥がれ落ち、潰瘍面ができる。(潰瘍とは、上皮が剥がれてなくなった状態のこと)そのため、潰瘍面

に露出した毛細血管から歯周ポケット内に血液が常時供給されるようになる。

この血液は、プロービング時の出血、あるいはブラッシング時の出血として観察される。

〈ブラッシング時の出血は歯周病発症のサイン〉

血液を供給された歯周ポケット内のPg菌などの歯周病菌は、赤血球のヘモグロビンを分解して、ヘミン

鉄を菌体内に取り込み、さらに血清タンパク質を栄養として大幅に増えバイオフィルムの病原性を一気

に高める。バイオフィルムの病原性が高まると、歯周病菌と歯周組織の拮抗バランスが崩れる。

この時が歯周炎発症の瞬間である。

〈上皮細胞を修復する方法〉

歯周基本治療によって歯周ポケットの出血を止めることができる。歯周病菌の細菌量が減れば、

歯周組織の創傷治癒力がバイオフィルムの病原性を上回る。そして、潰瘍面の閉鎖が始まり、出血が

止まる。スケーリング、ルートプレーニング、生活習慣指導、メインテナンスを行う。

〈感想〉

プロービング時の出血は炎症のサインということが改めてわかったため、検査時に見落としがないよう

に気を付けたい。そして、患者さんの口腔内状態から高リスク部位を見極め、それぞれの性格に合った

TBIができるようになりたい。歯科では専門用語が多く使われるが、患者さんからするとなじみのない

言葉が多いと思われる。今回学んだこともわかりやすく嚙み砕いた言葉で説明ができるように、語彙を

増やしていきたい。

                               衛生士 國只

  2021/09/19   ふくだ歯科
タグ:歯周病

「食と栄養の疑問」について、勉強会で発表して

Q.市販の野菜ジュースやふりかけは、野菜代わりになる?  

A.市販の野菜ジュースやふりかけは、野菜の代わりにはなりません。ただし、野菜に含ま れている一部

 の栄養素を補うことは可能です。 市販のふりかけは、一度に摂取できる量が少なく、生野菜や果物と

    いった原料由来の 栄養素をたくさん摂取することは困難。摂取量が増えればかえって塩分の過剰摂取

    が問題になる。市販の野菜ジュースは、原料由来の栄養素を含有しているが原料を絞ったり加熱殺菌

 したりといった製造過程で失われてしまう栄養素もある。

  食物繊維:水溶性と不溶性。不溶性食物繊維は“絞りかす”として除去される

  ビタミンC:加熱殺菌処理の際に一部失活してしまう

  ジュース:ジュースは“噛む”動作をともなわないので野菜の代わりとするには 不十分。

       ”噛む“::唾液分泌を促進し消化や口腔内の自浄作用を高めるだけでなく認知機能などに

           も関与している

  ただし、 製造工程の影響をほぼ受けず、加工品でとる方が吸収率が高くなる栄養素もある

       鉄・カリウム・カロテノイド(リコピン、βカロテン)   

 野菜はできるだけ食事で摂るように心がけ、野菜ジュースやふりかけは補助的に活用 するとよい。    

  冷凍野菜やカット野菜:野菜で調理の手間を省き、手軽に野菜を摂ることができる    

  電子レンジの活用:蒸し野菜や野菜スープなど時間をかけず手軽に調理できる

 

Q.フレーバーウォーターとミネラルウォーターの違いって?

A.フレーバーウォーターは、「清涼飲料水」。香りや味だけでなく糖分やエネルギーを 含んでおり、

 飲み過ぎるとう蝕や歯周病のリスクが高くなります。    

 「ミネラルウォーター」とは地表から浸透し、地下を移動中または地下に滞留中に 地層中の無機塩類

 が溶解した地下水である「ナチュラルウォーター」を原水として 、品質を安定させる目的等のために

 ミネラル分の調整や、複数の水源から採水した ナチュラルミネラルウォーターの混合などが行われて

 いるもの(農林水産省定義)  

 「フレーバーウォーター」とは一般的に見た目は無色透明のミネラルウォーターに 見えるものの、

 飲めばりんごや桃、レモン等の香りと味がついている飲料をさす (明確な定義なし) 

 フレーバーウォーターは「清涼飲料水」に分類され、糖分を使用している。 “水”のイメージが強調

 されて売られている。商品によって差はあるが水の代わりに 飲み干しているうちに糖分やエネルギー

 を過剰に摂っている可能性がある。

 "糖分が入っている飲み物“なので飲用する時間帯によっては飲用後の口腔清掃を十分に行わなけ

 れば、う蝕や歯周病等のリスクが高くなる飲み物である

 

[感想]   

チェアサイドでは会話のなかで食に関しての質問も少なくないと思います。最近では食品・飲料水に

関して紛らわしい表示もあります。惑わされないように、疑問に思ったことは解決していけるように

したいと思います。            

                      衛生士 赤木

  2021/09/01   ふくだ歯科
タグ:食と栄養

「アルツハイマー病〜歯周病菌が記憶を奪う〜」について勉強会で発表して

・認知症は予防できない疾患?

認知症予防法はいまだ見い出されておらず、認知症の「原因と対策」が平成の時代までは未確立であり

ました。 しかし、2019年1月、全く新しい視点から認知症の治療と予防への糸口が見つかったのです。

その糸口とは、数ある歯周病菌の中で最も高い病原性を有する「ポルフィロモナス・ジンジバリス」と

同菌が分泌する強力なタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)「ジンジパイン」です。

 

・細菌の性質の違い

人間社会と同じように細菌もまた、自分たちが生着する環境に応じた適応を遂げています。 歯の表面

では、歯肉縁上に定着する細菌群と、歯肉縁下の歯周ポケット内に生息する細菌群に大別されます。

歯肉縁上に生着する細菌は、空気中の酸素にさらされるため「好気性」であり、食物に豊富に含まれる

「糖質」を栄養源としています。これに対して、酸素の薄い歯肉縁下の奥深くに潜む菌は、酸素を嫌う

「嫌気性」であり、食物はポケット底に届かないため、周囲のタンパク質を分解して得られた「アミノ

酸」が彼らのエネルギー源になります。 歯肉縁上の細菌は豊富な酸素存在下で、ケーキや果物など食物

由来の糖質をエネルギー源としたうえで、ブドウ糖を数珠つなぎにしたグルカンでバイオフィルムを

成長させます。 歯肉縁下の細菌は、酸素を避けるためガスマスクを着用し、削岩機(プロテアーゼ)で

周囲のタンパク質を手当たり次第に破壊しながら、バラバラになったアミノ酸をエネルギー源として

います。この時ターゲットになるタンパク質は、豊富なコラーゲンを含んだ歯根膜線維や歯肉溝滲出液

に含まれるアルブミン、そして出血で現れた赤血球のへモグロビンなど、多種多様です。

 

・最強の歯周病菌ポルフィロモナス・ジンジバリスとタンパク質分解酵素ジンジパイン

歯周病菌の中でも、際立って強力なタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)を有する細菌が、「ポルフィロ

モナス・ジンジバリス」です。ポルフィロモナス・ジンジバリスが産生し、菌体外に分泌する「ジンジ

パイン」というプロテアーゼは、あらゆるタンパク質を分解します。 ポルフィロモナス・ジンジバリス

は、数百種類を超える歯周病菌群の中で、最も病原性が高い菌として知られていますが、その高病原性

はジンジパインによってもたらされているのです。

 

・全てを破壊し尽くすジンジパイン

ジンジパインは強力なタンパク質分解酵素なので、アルブミンもコラーゲンも4時間で、ほぼすべての

タンパク質をペプチド・アミノ酸レベルにまで分解してしまいます。 ヒトの歯肉溝滲出液には「アルブ

ミン」が豊富に含まれています。歯肉溝と深い歯周ポケットから回収された歯肉溝滲出液中において、

アルブミン状態に違いがあるかどうかを比較した実験によると、深さ1〜2mmの正常な歯肉溝から回収

された歯肉溝滲出液に含まれるアルブミンの分解は一切認められませんでしたが、一方深さが4〜6mm

ある歯周ポケットから回収されたサンプルでは,アルブミンの部分的な分解が認められており、深さ7〜

12mmの歯周ポケットになると著しい分解が起きていることがわかりました。 しかし、ジンジパインの

標的は、コラーゲンやアルブミンに留まりません。歯周組織は歯肉や歯根膜をはじめとして、豊富な

血管網に裏打ちされていますが、ジンジパインの破壊作用はこれらの血管組織にも及びます。 正常な

血管の内腔は内皮細胞がぴっちりと敷き詰められ、血液成分が血管の外に漏洩することはありません。

しかし、血管内皮が傷害されると細胞間に間隙が生じ、そこから血液成分が組織に漏れ出てしまい

ます。これを「血管透過性の亢進」とよびますが、ジンジパインは血管内皮に傷害を与えることで血管

透過性を亢進させるのです。 注目すべきは、実験で観察されたジンジパインによる血管透過性亢進が、

培養上清皮下注射後「わずか30分」で認められたという事実です。急性反応でこれだけの血液成分漏洩

が起きたということは、歯周ポケット内で1週間、1カ月とジンジパインによる血管傷害が続けば、

やがては血管が破れ「出血」が起きることが予想されます。

・ポルフィロモナス・ジンジバリスは鉄を喰らって生きる

ポルフィロモナス・ジンジバリスは、歯周組織からの出血により溢れ出した赤血球のヘモグロビンを

ジンジパインで分解し、「ヘミン」を手に入れます。ヘミンは鉄を含むポルフィリンであり、鉄はポル

フィロモナス・ジンジバリスの必須栄養素です。 鉄は彼らにとっての生命線であり、歯周ポケット内部

で「出血が長期的に続く」ことが、ポルフィロモナス・ジンジバリスが増殖するための絶対条件といえ

ます。

 

・ポルフィロモナス・ジンジバリスは歯ぐきの中にすみつく

ポルフィロモナス・ジンジバリスの病原性が高い理由は、ジンジパインに加えてもう1つあります。

一般的に、「歯周病菌はプラーク中に存在するものと捉えられていますが、実はポルフィロモナス・

ジンジバリスは上皮細胞に侵入する能力をもつ、数少ない細菌の1つなのです。 ポルフィロモナス・

ジンジバリスはプラークから歯肉上皮に侵入し、さらに歯肉内部で感染を広げるのです。 さらに、

ポルフィロモナス・ジンジバリスは、激しい血流下でも留まることができる、「内皮への強力な

接着能」を有しています。

 

・マウスを用いた感染実験

イリノイ大学シカゴ校歯学部グループは、マウスの口腔内に週3日(月水金)、合計22週間にわたり、

ポルフィロモナス・ジンジバリスを投与し続けることで、マウスのポルフィロモナス・ジンジバリス

感染モデルを確立しました。23週目に上顎をCTで撮影すると、ヒトの歯周病と同じく、「歯槽骨の

吸収」が観察されました。 2018年、このマウス歯周炎モデルを用いて、ポルフィロモナス・ジンジバ

リス口腔内投与後に、ジンジパインが海馬に局在している事実を突き止めます。 さらには、ポルフィロ

モナス・ジンジバリス投与群では、海馬において、神経変性が起きており、アルツハイマー病患者の

脳組織に特徴的な、アミロイドβとリン酸化タウの集積が明らかになりました。 健常者と各種脳疾患

患者の脳組織切片を用いて、ジンジパインの検索を行うと、パーキンソン病、ALS (筋萎縮性側索硬化

症)、ハンチントン病では、ジンジパインの集積は健常者と変わりありませんでしたが、アルツハイマー

病では病期の進展に応じて、著しいジンジパインの沈着を認めました。さらには、軽度認知障害症例

や、30代の極早期老人斑など、認知症発症の前段階でもジンジパインが検出されています。 これらに

より、ポルフィロモナス・ジンジバリスが生きた人間の体内で、神経感染を起こしている事実が明らか

になったのです。

 

【感想】

歯周病菌が認知症の方の体にどのような経緯で影響するのかを全く知らなかったので、とても勉強に

なりました。認知症の治療薬はまだ出来ていませんが、年々認知症の方は増加の傾向にあるので、今後

認知症の患者さんと接することも考えて治療にあたりたいと思いました。

                                衛生士 星島

  2021/08/11   ふくだ歯科
タグ:認知症

歯周病と全身疾患について、勉強会で発表して

20世紀の末から歯周組織の慢性炎症や歯周病菌が全身に悪い影響を及ぼすという臨床研究が数多く報告

され、歯周病と全身疾患は互いに影響しあうメカニズムが存在しているという考えが定着しました。

 

歯周病が誤嚥性肺炎や低体重児・早産、骨粗鬆症、がん、慢性関節リウマチなどのリスクファクターに

なることが、これまでに報告されており、それにより肥満や高脂血症、メタボリックシンドロームに

繋がっていき、アルツハイマー病、脳血管疾患、心血管疾患、糖尿病、バージャー病、慢性腎疾患など

の全身疾患を発症させる恐れがあります。

 

*歯周組織を守る歯科衛生士は患者さんの全身の健康を守る

動脈硬化部病変を外科手術によって取り除いた症例の多数の組織片から歯周病菌が検出され、歯周病菌

が全身の血流に移行すること(菌血症)と心血管疾患(動脈硬化・虚血性心疾患)の関連が認識され

ました。また、歯周炎の病巣由来の炎症性物質(炎症性サイトカイン)が血流に乗って全身を巡り、

糖尿病などを悪化させていくことも報告されました。 また、歯周病治療によって糖尿病が改善した報告

もいくつかあります。 歯周基本治療は患者さんの全身の健康にも役に立つことがはっきりしてきま

した。歯周組織を守る歯科衛生士は患者さんの全身の健康も守っているわけです。

 

*歯周ポケットの出血を止めて全身疾患を防ぐ

細菌の塊が傷口に押し付けられることによって、歯周組織の炎症は一段と激しくなります。 サイトカイ

ンの嵐と呼ばれる激しい免疫応答がますます活性化され、歯周組織で産生されたサイトカインは血流に

乗って全身に運ばれ、さまざまな臓器、組織で炎症を起こすようになります。さらに、バイオフィルム

細菌は潰瘍面の毛細血管を通じて全身に運ばれます。 細菌が血液中に侵入した状態を菌血症といい

ます。 歯周病菌による菌血症は、スケーリング、抜歯はもちろん、毎日のブラッシングや食事によって

も起こります。これが、歯周病によって引き起こされる全身疾患の原因です。 歯周基本治療によって

ポケット内潰瘍面を閉鎖することは、患者さんの全身の健康を守ることです。

 

感想

歯周病は様々な全身疾患と関係していることがわかりました。 歯周病がリスクファクターとなること

から患者さんの将来や今後のことを考えたうえで指導やTBIをしていく必要があると思いました。 また

歯周病で歯肉が炎症して出血しているときは、細菌の塊が歯周病を悪化させたり、細菌が毛細血管に

乗って全身に運ばれ菌血症となり全身疾患にもつながっていくので、歯磨きやスケーリングをして細菌

や毒素を出してあげることや患者さんにセルフケアの大切さを伝えることが大切だとわかりました。

歯科衛生士として患者さんの口腔内だけでなく全身の健康を守っていくために全腎疾患について知って

おく必要があるなと思いました。 今後TBIを行っていくときに今回学んだことを生かしていきたいと

思いました。

                         衛生士 岡崎

  2021/07/22   ふくだ歯科
タグ:歯周病

「早産と死産」について、勉強会で発表して

ある種の歯周病菌が口腔から血管網に入り、子宮に到達した後、早産や死産を起こした症例が報告

されています。若い女性にとって、歯周病は縁遠い存在かもしれませんが、歯肉炎は知らぬ間に女性の

歯肉を襲っています。最近流行のスイーツや菓子パン、清涼飲料水は、多量の砂糖を含んでいるため、

容易にプラークの付着と歯肉炎を誘発します。赤く腫れ、出血する歯肉を放置したままで妊娠すると、

歯肉炎の影に潜んでいる歯周病菌が、大切な赤ちゃんを襲うことになるかもしれません。

歯周病に関連する細菌は、歯周病の発症・重症化への影響度に応じて、ピラミッド状のグループ化が

行われています。 ピラミッドの最上部には、最も病原性の高い“レッドコンプレックス”が存在し、

3種類の細菌から構成されています。レッドコンプレックスの下方には、“オレンジコンプレックス”が

控えていますが、その構成細菌の1つが「フソバクテリウム・ヌクレアタム」です。 フソバクテリウ

ム・ヌクレアタムは、歯周病菌の中でも多数を占める、ごくありふれた口腔内細菌なのですが、悪条件

が重なると、恐ろしい事態を引き起こすことが明らかになっています。

2010年、35歳のアジア人女性が、39週と5日、あと数日で無事に初産を迎えようとしていた

明け方、赤ちゃんが突然動かなくなっていることに気づきます。急いで大学病院を受診したところ、

すでに胎児の心拍は停止していたのです。この母親は出産前から妊娠関連歯肉炎による歯肉からの出血

を認めており、死産の3日前に上気道炎に罹患し、37.8℃の発熱を来していました。 猛烈な臭いを

放つ羊水に続いて、悪臭が染みついた遺児が取り上げられ、解剖の結果、胎盤、臍帯(へその緒)、胎児

の肺と胃に、多量の細菌が認められ、死因はフソバクテリウム・ヌクレアタムによる劇症肺炎および

敗血症と結論づけられたのです。 胎児の大腸にフソバクテリウム・ヌクレアタムは存在しなかった

ため、死産直前の感染であったと考えられます。感染経路を同定するために、母親の膣、直腸、歯肉縁

上プラーク、歯肉縁下プラークから採取した細菌遺伝子を解析したところ、胎児で確認されたフソバク

テリウム・ヌクレアタムと遺伝子型が一致したのは、歯肉縁下プラークのみでした。 これらの解析結果

から、歯肉縁下のフソバクテリウム・ヌクレアタムが血行性に子宮内へ転位し、肺炎と敗血症により

胎児を絶命させたことが、世界で初めて明らかになったのです。

研究によれば、フソバクテリウム・ヌクレアタムは、死産だけでなく早産にも関わっている可能性が

明らかになっています。 2009年に発表された研究によれば、早産を起こした妊婦44名のうち

48%、すなわち早産を起こした妊婦の2人に1人の割合で羊水中に細菌が同定されたのです。 同定

された細菌のうち、最も高頻度(33.3%)に認められた細菌は、フソバクテリウム・ヌクレアタム

でした。 歯周病菌が早産・死産に関わっているという事実は衝撃的ですが、口腔と胎盤をつなぐさら

なる事実が存在します。 従来、細菌叢を解析するためには培養方法を用いるしかありませんでしたが、

歯周病菌や腸内細菌に代表される嫌気性菌は培養が難しく、その同定は困難を極めました。しかし、

近年急速に発展した遺伝子解析技術の進歩により、体内の細菌叢を遺伝子レベルで網羅的に解析する

ことが可能となったのです。 48人の胎盤中の16SリボソームRNA遺伝子を解析し、体内における

さまざまな細菌叢との比較検討を行いました。その結果、胎盤における細菌叢は口腔と最も高い相同性

を示したのです。この事実もまた歯周病菌が血行性に移転してる事実を示唆していると考えられます。

歯周病の妊婦さんが全員、死産や早産を起こすわけでは決してありません。しかし、たとえ稀では

あっても、歯肉から出血する状態を放置しておくと、口腔子宮感染症を起こすことがあるのです。

ならば、赤ちゃんを希望する女性が、今から備えることはただ1つ。受精してからでは遅すぎるので、

未来のお子さんが「マイナス2歳の時期」から、口腔ケアに取り組むのです。ただし、歯周病は唾液で

容易に感染しますから、自分の行動だけでは足りません。この機会に、パートナーやご両親も巻き込み

「家族総出のお口のケア」に努めてみてはいかがでしょうか?

 

〈感想・まとめ〉

妊婦・パートナー検診で来院された患者さん、来院中に妊娠された患者さんには院長から母子感染の

説明がありますが、その前の「マイナス2歳の時期」からの歯周病予防の重要性を知りました。

妊娠・出産についてはデリケートな問題ですので、患者さんと信頼関係を築き、負担のないようお話

できればなと思いました。

                          衛生士 池口

  2021/06/23   ふくだ歯科
タグ:妊娠