「妊婦さんにこれだけは伝えたい!」について、勉強会で発表して
☆う蝕予防
*う蝕リスク
①「食事、間食の回数が増えることで虫歯になりやすくなるので注意しましょう」
⇒妊娠中はホルモンバランスの変化や唾液量の減少、免疫力の低下などによって 口腔内は細菌が
繁殖しやすい環境になる。
また食べ物の好みが極端に変化したり、食事回数が増えることがよくある。
食物中に含まれる炭水化物が細菌によって分解され、口腔内が酸性に傾くと、 歯の表面が溶け
やすくなり、う蝕リスクが高まる。
②「つわりの時期は虫歯になりやすくなります。歯磨きで気持ち悪くなる場合は小さい歯ブラシに
する、においや刺激の少ない歯磨き粉を使うなど工夫しましょう。」
⇒妊娠中には眠気が強くなったり、頭痛やめまい、発熱の症状、精神不安定になったりする
ので、口腔ケアがおろそかになりやすい。
吐き気・嘔吐の症状がある場合には、歯磨きで嘔吐をもよおすこともある。
また嘔吐時の胃酸は口腔内を酸性に傾けるので、エナメル質が脱灰しやすくなることが考え
られる。
*フッ化物の利用
③「フッ化物配合の歯磨材や洗口剤によるお口のケアは、虫歯予防の有効な手段です」
⇒フッ素にはエナメル質の脱灰抑制作用、再石灰化促進作用、プラーク細菌の酸産生の抑制作用
があります。フッ化物配合の歯磨材や洗口剤による口腔ケアは、エナメル質を酸による
ダメージから守るのに有効。
④「赤ちゃんに虫歯菌を移さないためにも定期的に通院して虫歯予防をしっかり行いましょう。」
⇒歯科医院でう蝕の進行をとめる処置や専門的なプラークコントロールを受けることは、妊娠中
のう蝕予防に有効であるだけでなく、口の中の細菌数を減らし環境を整えることで、う蝕原因
菌の母子感染を予防する。
☆歯周病予防
*妊娠性歯肉炎
⑤「妊娠中は歯肉炎になりやすいです。きちんとプラークコントロールできていないと、ひどい
歯肉炎や歯周炎になってしまう危険性があります。歯肉炎の予防や症状悪化を防ぐために
プラークコントロールをしていきましょう。」
⇒妊娠中はエストロゲンやプロゲステロンなど女性ホルモンの分泌がさかんになり、口腔内で
はこれらのホルモンを好む歯周病細菌が増えるため歯肉炎になりやすくなる
(=妊娠性歯肉炎)
妊娠による内分泌系の変化が大きく関係しているので、出産後は自然消失することも
多いが、きちんとプラークコントロールできていない場合にはひどい歯肉炎、歯周炎を
起こす危険がある。
※妊娠中期のプラークと歯肉炎の関係についての調査
→プラークの多いグループは少ないグループに比べて歯肉炎指数が2.6倍だった!
*低体重児出産・早産と歯周病
⑥「歯周病は早産のリスクを高め、反対に歯周病を治療することによって早産の発生が減少する
可能性があります。早めの検査と必要な治療が大切です。」
⇒早産の25~40%が産科器官の感染症からおこるといわれている。
膣内に感染が起こるなどの炎症状態になると、プラスタグランジン(PGE2)などの子宮収縮物質
が羊膜腔や胎盤膜に作用し、子宮収縮や頚管熟化などを促進して早産を引き起こすと考えられて
いる。 歯周病は慢性感染症であり歯周病巣内では歯周病細菌やその構成成分などにより炎症反応
が起こりさまざまな炎症性物質が放出される。
これらが血液中で上昇することにより、胎盤を通過して胎児の成長に影響を与えたり、子宮収縮
を促進して早産を引き起こすことが考えられる。
※低体重児出産、早産と歯周病の関連性はまだ確立されていないが、歯周病は早産のリスク
ファクターになるという報告や、歯周病の治療によって早産の発生率が減少するという報告
がある。
※歯周病による早産発生のメカニズム
歯周病→血中のサイトカイン上昇→子宮収縮→早産
☆喫煙のリスク
⑦「喫煙は歯周病を重症化させ、またお母さんの身体だけでなく胎児の発育にも悪影響を及ぼ
します。」
⇒喫煙者の歯周病罹患率は非喫煙者の2~9倍も高く、喫煙本数と比例して歯周病が重症化
することがわかっている。
喫煙は妊婦の身体だけでなく、胎児の発育にもさまざまな悪影響を及ぼす。
喫煙すると子宮血液量が減少し、母体側から胎児側へ十分な栄養物質や酸素が届かなく
なってしまうため、低体重児出産、早産が高頻度に発生するとされている。妊婦本人が
タバコを吸わなくても、妊娠中に受動喫煙にさらされただけでそのリスクは高くなる。
※喫煙の胎児へのリスク
・因果関係の証拠:示唆的
→流産、子宮外妊娠、先天性奇形(口蓋裂)
・因果関係の証拠:確実
→低体重児、早産、妊娠中の異常、乳幼児突然死症候群
※早産や低体重児、乳幼児突然死症候群、妊娠中の異常は、妊婦本人が喫煙しなくても
周囲の喫煙だけでリスクが上昇することが明らかにされている。
☆妊婦の歯科治療の安全性について
⑧「歯科治療を行ってはいけないという時期はありません。局所麻酔も大丈夫です。 妊娠中は普段
よりもトラブルを起こしやすいので、自覚症状がなくてもクリーニ ングや適切な治療を受けま
しょう。」
⇒原則的に妊娠中に歯科治療を行ってはいけないという時期はない。
安定期に入れば母体に負担がかかる治療でなければ、局所麻酔も大丈夫。
妊娠中は普段より口腔内にトラブルを起こしやすい状態。産まれてくる子ども の歯の健康の
ためにも正しい知識を吸収し、口腔ケアに対する意識を高める重要 な時期でもある。
《感想》
妊娠をきっかけに検診希望で来院される患者さんも多くいらっしゃいます。
「妊娠中は虫歯や歯周病になりやすい」ということはなんとなく知られていますが、来院された患者
さんに科学的根拠に基づいてしっかりと説明できるように今回のレポートの内容を頭にいれておき
たいと思います。
妊娠、出産は人生でとても大きなイベントであると同時に、妊婦さんや生まれてくる乳児の健康に
関する意識が、本人はもちろん周囲の人たちも含めてとても高まる時期です。
妊婦さんへのアプローチから、予防の重要性を家族単位で伝えていけるよう、情報を活用していき
たいと思います。
衛生士 西内