「どうして義歯で口蓋を覆って大丈夫な人と駄目な人がいるのだろう?」を読んで
上顎全部床義歯は口蓋の被覆が必要となる。義歯で広く覆っても、口蓋の機能は時間の経過とともに
回復すると判断される。しかし、どうしても義歯装着を受け入れられない原因として、味覚の変化、
拘扼反射、口蓋隆起などが挙げられる。
◆上顎全部床義歯による被覆範囲
上顎義歯における被覆範囲は残存顎堤と口蓋である。
口蓋 ・ 前方:硬口蓋
硬口蓋の粘膜は咀嚼粘膜として分類され、角化層を形成し非可動性である。
後方:軟口蓋
軟口蓋は内側には骨はなく、口蓋帆張筋の作用によって膜状に口腔を覆っ ている。
義歯の維持を考えた場合、後縁は後方の延長が望ましいと考えられており、適切に設 計された
義歯の後縁は、硬口蓋と軟口蓋の境界をわずかに越えた後方に設定する。
◆口蓋の機能とは
①舌で口蓋に食物を押しつけることで食物の性状を調べる。
②軟らかい食物を口蓋と舌で圧縮することで押しつぶす。
③口腔の上壁となり発声時の共鳴腔をつくる。
④軟口蓋は嚥下時に鼻咽腔閉鎖や食塊の形成にとって重要な役割をもつ。
⑤軟口蓋の味蕾は味を受容する。
新義歯、特に初めて口蓋を被覆する義歯を装着した場合に、これらの機能は一時的に 影響を
受けることが考えられる。
発音の困難感については、装着後1~3日目になると調音器官に順応が認められる。
6日目以降には発音困難感はほとんど消失する。
◆全部床義歯装着を受け入れられない理由
新義歯により、満足な咀嚼ができるようになるまでには、6~8週間を要する。
装着後の数日間は唾液が過度に流出するために気分や咀嚼が害されることがあるが、短期間の
うちに唾液腺が義歯に順応して分泌量は正常に戻るといわれている。
☆
新義歯の装着に対して不満を抱いている患者の割合は、新たに義歯を製作した者の中の 10%~15%
程度にあたると報告されている。
痛み ・ 不快感 ・ 維持力不足
口蓋を広く覆う義歯に対して不満を訴えた場合⇒無口蓋義歯(維持力が低下する)
無口蓋義歯を必要とする状況
① 味に関連した職業に就いている人。
② 拘扼反射の強い人。
③ 口蓋隆起の大きい人。
◆口蓋の被覆によりなぜ味覚の障害が起こるのか
味蕾の多くは舌表面に存在し、その総数は約5,000個であるといわれている。また、軟口蓋、
咽頭、喉頭部にも一部存在する。
義歯床による口蓋の被覆で味覚が障害される要因として、口蓋に対する舌の触刺激及 び舌で
味物質を口蓋に圧する圧刺激が床によって妨げられることではないかと考えら れている。
硬口蓋の温・冷覚の発現が阻害されることによって、味覚の変化や減退が生じるとも いわれている。
◆拘扼反射はなぜ発現するのか
口蓋を被覆する義歯を装着することによって、むかむかして嘔気を催すことがある。 これは拘扼反射
によるものである。拘扼反射は本来は異物排除のための正常な生体反 応といえるが、患者が歯科に
関する器材を意識する時点で惹起されるようになれば、 異常な反射として歯科治療上しばしば問題
となる。
原因:器質的な疾患、解剖学的な要因、心因性のもの、医原性のもの、 過去の不快な経験から反射が
誘発される場合
【まとめ】
年明けに、義歯の不具合により患者が歯科医師を襲う事件があったとニュースで聞き ました。
本当の動機はそうでなかったのかもしれませんが、義歯の痛みは人をも襲う ぐらい深刻な問題で
あると思い知らされました。義歯をすると口腔内でどのようなこ とが起こるのか再確認する必要
があると思いました。
衛生士 赤木