スタッフレポート

創傷治癒

「洗口剤の適切な使い方が正常な治癒へと導く」について、勉強会で発表して

 

洗口剤は、使い方によっては創傷治癒の妨げに!

歯周外科手術後やインプラント手術直後は、歯ブラシ等のちょっとした刺激で出血しやすく、機械的な清掃を避けたい時期。しかし、創傷治癒がなされる為には、手術部位を清潔に保つ必要があり、洗口剤で局所を消毒する事が有効。消毒薬の中でもクロルヘキシジングルコネート(CHX )は最も広く使われている。しかし、CHXを手術後に用いる時は慎重にならなければいけない。CHXには副作用がある他、創傷治癒に不可欠な繊維芽細胞に影響を与えるからだ。これを「細胞毒性」という。細胞に対して死あるいは機能障害、増殖阻害の影響を与える性質のこと。

創傷治癒のタイムテーブル…外科手術等で創傷がつくられると、体はただちに創傷を修復する為に、炎症という反応で創傷治癒をスタートする。沢山の物質が出てきて炎症を起こす。この時に繊維芽細胞も出現。術後24時間以内に十分な量の繊維芽細胞が発現して、結合組織を修正するべくその成分であるコラーゲンを生成していく。

 

CHXの副作用

1984年、日本でアナフィラキシーショックの報告がある。1998年には、アメリカでも同じような報告がされている。CHXのアレルギーの既往のある患者では、皮膚の洗浄は勿論、歯磨剤や洗口剤等に微量でもCHXが含まれている場合は、最大の注意を払うよう喚起している。アナフィラキシーショックほどではないが、CHXの長期的連用によって、粘膜剥離や、歯表面の色素沈着、味覚の変化、創傷治癒の障害、繊維芽細胞の歯根面への付着の減少がある。

 

上記の創傷治癒のタイムテーブルに示す通り術後最初の24時間で十分な量の繊維芽細胞の出現が必要で、それによってコラーゲンが生成され、創傷治癒を速やかに促す事ができる。CHXの使用は、術後約24時間経ってから、と指示。

全身疾患の存在や薬物の長期服用等の影響が、結合組織を創るコラーゲン、またコラーゲンを創る繊維芽細胞等の物質へ何らかの影響を及ぼしている事は想像できるので、普段身近にある洗口剤でも、その使い方に注意をする必要がある。また、前述のようなアレルギー反応も稀ではあるが存在する。洗口剤等の薬理効果については、良い部分だけでなく、必ず好ましくない効果についても知らなければならない。

 

〈感想〉例えばコンクールFは高い殺菌・静菌作用があり使用感もすっきりするので、ブラッシング時によく用いるが、これもCHX洗口剤に分類される。稀ではあるがアレルギー反応も存在する事を意識し、注意していきたい。           衛生士 千田

  2014/07/07   ふくだ歯科
タグ:創傷治癒

創傷治癒のメカニズムについて、勉強会で発表して

創傷治癒のメカニズムは次の3つのステージに分けることができる。

ステージ①炎症のステージ

     →まずは“炎症”が起こる。

      臨床的な症状として、発赤、腫脹、熱感、不快感(疼痛を含む)

    ※発赤、腫脹、熱感は血管の拡張によるもので、血流量の増加と血管壁の

透過性の亢進の結果。

ステージ②増殖、肉芽形成のステージ

     →炎症の後、細胞の増殖、肉芽形成のステージに移行する。

      そのとき重要な役目を果たすのがサイトカイン(可溶性の小さなプロテイン)

      主に免疫細胞から放出されたサイトカインが、炎症に関与する細胞の機能を促進したり阻害したりして、炎症をコントロールする。

    ※熱を産生するサイトカインは、代表的なものの1つ。

     また、成長因子が別のカテゴリーの細胞間のシグナル伝達(コミュニケーション)

     をしており、これは細胞の増殖、分化に関与し、組織を構成する細胞外マトリ

     ックスの生成と成熟にかかわっている。

    ※「どれくらいコラーゲンをつくって増やすのか?」「いつ止めるか?」「そのスピードは?」などをコントロールしている。

ステージ③リモデリングと組織の成熟のステージ

     →結合組織がリモデリングするためには、結合組織の主成分であるコラーゲンが必要。コラーゲンをつくるには繊維芽細胞が不可欠。

⇒これには②の細胞外マトリックスがかかわってくる!

    ★術後3~4日で繊維芽細胞が新しい結合組織をつくり始める

    ★コラーゲンの産生には幅があり7~21日でピークに達する

   ※傷が治りかけてくるとムズムズ、チクチク痒い感じがするのは、繊維芽細胞が

    活躍している印!繊維芽細胞には尖った部分があり、それらが周囲の組織を刺激している。またヒスタミンなどの痒みを誘導する物質も存在する。

 

☆歯周外科手術では、一次治癒、二次治癒、三次治癒の3タイプの治り方がある

   一次治癒…非常に良い組織の閉鎖がされて、治癒のために的確な血流の回復が

なされる。

   二次治癒…創傷の組織がぴったりと閉じずに隙間をもって治っていく。

        その隙間は肉芽細胞を埋めるように治っていき、時間がかかる。

   三次治癒…二次治癒と関連し、感染などが起きて治癒のメカニズムが中断され

        た状態。

☆リモデリングに要する時間

 ・血管…切開後3~4日で始まる。血液から治癒に必要な栄養を取り入れ、血管内皮

     細胞が増殖して新しい血管を作り始める。術前と同じくらいの血液循環を達成

     するために10~15日間ほど血管を作り続ける。

 ・骨…破骨細胞は約3~4日で壊死した骨を除去し始める。創傷における炎症反応に

    よって起こる骨吸収は8~10日がピーク、14~21日位まで続く。

    骨の生成が21~28日の間に起こり、組織学的治癒には約1~2年かかる。

 

《感想・考察》

外科的手技による創傷治癒は、体のどの部分も同じプロセスをたどります。

治癒に要する時間は、その範囲と程度(大きさ、深さ、ボリュームなど)が関係しており、

またどれくらい的確に治癒に必要な栄養が周囲組織から供給されるかにもよるとのこと。

加えて歯周外科手術では、先に挙げた3タイプの治り方があります。

創傷治癒のメカニズムを正しく理解し、それぞれのケースにおける最適な治癒に導いて・                    いけるよう適切な衛生指導を心がけたいと思います。                                                                                                                 衛生士 西内                                                                                                                           

  2014/02/24   ふくだ歯科
タグ:創傷治癒

創傷治癒に関係する術後の食事について、勉強会で発表して

術後はなぜ食事に注意を払うの?

 歯周外科手術後の最初の週は、術後の創傷治癒を促す環境が大切。それには局所部位が「清潔である事」「適度な水分を保つ事」「免疫機構が正常に働くのを助ける為に不必要な刺激をできるだけ排除する事」が重要。このような環境を確保する為にも、術後の患者さんには飲食に注意を払って貰う必要がある。例えば、①硬い物は避ける。②術後すぐは熱い食べ物を避ける。③小さい形状の食べ物を食べる。④バランスの取れた食事を摂取する。⑤ビタミンCを多く含んだ食品を摂取する。⑥辛い物は避ける、等。

その裏づけは?

 

①“硬い物は避ける”→手術した部位に機械的刺激を極力少なくする為。硬いフランスパンやお煎餅で新たな傷を創ったりする例はよく見かける。(ピーナッツやアーモンド、硬い林檎、柿等も同様)

②“術後すぐは熱い食べ物を避ける”→術後暫くは、局所麻酔が効いている。熱い物を飲食して、口腔粘膜に火傷を負っても気がつかない。不必要な火傷によるダメージを防ぐ為には重要。

③“小さい形状の食べ物を食べる”→大きな物を口の中で噛み砕く為には、口腔周囲筋を十分に使わなければいけない。しかし、歯周形成手術(ぺリオドンタルプラスティクサージェリー)等のデリケートな手術の後では、ちょっとした筋肉の動きで創傷治癒に影響が出る事がある。そこで、小さな形状にして口腔周囲筋の過度な運動を避けて貰いたい。(縫合糸にも影響が出る事がある)

④“バランスの取れた食事を摂取する”→創傷治癒には、体に元来ある治癒の為の代謝機構、免疫機構等が正常に機能する事が不可欠。しかし、この機能に影響を与える物がある。年齢、性差、器質的疾患の有無、代謝障害、薬物の種類、生活習慣、精神的傾向等。妊娠時や月経時、或いは更年期等、女性ホルモンの変動が顕著な場合も影響を及ぼす。そこでバランスの取れた食事や栄養のある食事が大切になる。これらの食事は、体の生理学的な働きを助け、正常な創傷治癒に繋がる。

⑤“辛い食べ物は避ける”→香辛料には抗酸化物質(活性酸素を消す働きをする物質で、多くの疾患の治療に使われてきた)や、疲労回復、創傷治癒、の促進、血管新生の調節、抗がん作用等の効能がわかっているが、別の角度から香辛料を見ると、レッドペッパーの摂取により体温の上昇がみられたという報告がある。熱の生成が創傷治癒にどう影響するかまだはっきりとはわかっていない。ただ、「炎症で起きる熱の生成」と「辛い食べ物を食べて起きる熱の生成」は様相が異なるという事は考えられる。沢山の報告がなされているが、いずれも研究段階のもので、創傷治癒時の患者さんに勧められる段階にはまだ達していない。できるだけ局所の刺激を少なくしたいので、辛い食べ物は好ましくないといえる。

⑥“ビタミンCを多く含んだ食品を摂取する”→結合組織を構成しているコラーゲン繊維は、300以上のアミノ酸の配列でできている。組織が治癒するには、アミノ酸が正しく決められた順番に並んだ状態でなければならないが、それにはビタミンCが必要。抗酸化物質であるビタミンCを多く含んだ食品を摂る事で組織のダメージを防いでくれる。

 

<感想> 術後の患者さんに聞かれる事がある為、今回の内容をお伝え出来ればと思った。辛い物に関しては、個人によって異なったり、まだ研究段階という事なので、今後も情報収集(他の件でも)していきたい。                           ・                                                       衛生士 千田

  2014/02/17   ふくだ歯科
タグ:創傷治癒