BRONJについて、勉強会で発表して
=BRONJ=
~徹底した口腔衛生で発症させない、進行させない~
参照:歯科衛生士2013.1月号
★「BRONJ」とは…ビスフォスフォネート系薬剤(BP製剤)関連顎骨壊死の略称。
顎骨のみに症状が現れる重篤な疾患。
発症すると骨が露出し、骨壊死や骨髄炎の症状を呈する。
発症に関しては、必ずしも疼痛や腫脹などの炎症症状をともなうわけでは
ないためやっかい。
※発症頻度は、骨粗しょう症などで服用の場合では、投与を受けた症例の0.04%に、注射用BP製剤では0.4%~40%が発症すると報告されている。
注射用製剤の方が顎骨壊死の症状が大きく、予後も悪い。
★BP製剤は幅広い疾患に応用されている
→強力な破骨細胞機能抑制作用を有することから、低骨量を呈する疾患に投与されている。
ex) 注射用製剤◇悪性腫瘍骨移転(乳癌・肺癌・前立腺癌)
◇多発性骨髄腫
経口用製剤◇骨粗鬆症
◇骨ページェット病
◇副甲状腺機能亢進症
◇ステロイド性骨症
BP製剤一覧
注射用製剤
・アレディア(パミドロン酸ニナトリウム)…悪性腫瘍による高カルシウム血症
乳癌の溶骨性骨転移
・テイロック(アレンドロン酸ナトリウム水和物)…悪性腫瘍による高カルシウム血症
・ボナロン(アレンドロン酸ナトリウム水和物)…骨粗鬆症
・ゾメタ(ゾレドロン酸水和物)
…悪性腫瘍による高カルシウム血症、多発性骨髄腫による骨病変および固形癌骨転移による骨病変
経口用製剤
・ダイドロネル(エチドロン酸ニナトリウム)
…骨粗鬆症、脊髄損傷後・股関節形成後における初期、および進行期の異所性骨硬化の抑制、骨ページェット病
・フォサマック(アレンドロン酸ナトリウム水和物)…骨粗鬆症
・ボナロン(アレンドロン酸ナトリウム水和物)…骨粗鬆症
・アクトネル(リセドロン酸ナトリウム水和物)…骨粗鬆症、骨ページェット病
・ベネット(リセドロン酸ナトリウム水和物)…骨粗鬆症、骨ページェット病
・ボノテオ(ミノドロン酸水和物)…骨粗鬆症
・リカルボン(ミノドロン酸水和物)…骨粗鬆症
◆口腔内細菌や歯周病のコントロールが術前から必要!!
BRONJ発症のリスクファクターの内、局所的ファクターでは口腔衛生状態の不良が
挙げられている
→良好な口腔衛生状態が保てていれば、BRONJを防げる可能性がある。
BRONJ発症のリスクファクター
①BP製剤によるファクター
・科学的構造に窒素が含有されているBP製剤は、非含有製剤より、BRONJを起こしやすい
・注射用BP製剤は、経口製剤よりBRONJを起こしやすい
②局所的ファクター
・抜歯、歯科インプラント埋入、根尖外科手術、歯周外科など骨へ侵襲を与える歯科治療
・口腔衛生状態の不良
・歯周病や歯周膿瘍などの炎症性疾患の既往
・上顎より下顎が発症しやすい。
また下顎隆起、口蓋隆起、顎舌骨筋線の隆起部に発症しやすい。
③全身的ファクター
・各種臓器癌
・腎透析
・ヘモグロビン低値
・糖尿病
・肥満
・骨ページェット病
④先天的ファクター
・MMP-2遺伝子
・チトクロームP450-2C遺伝子
⑤その他のファクター
・ステロイド、シクロフォスファミド、エリスロポエチン、サリドマイドなどの薬物の服用
・喫煙
・飲酒
☆発症させないために…
・BP製剤内服状況を把握することは必須!
・将来的に内服する可能性も把握しておく!
・歯科治療計画に影響を与えるため、「いつから、いつまで」服用していたのかも把握する!
1)医療面接時に徹底して聞く
・年齢、閉経時期…閉経後の女性の場合、骨粗鬆症の発生頻度UP!
・体格(身長・体重)、姿勢…脊柱変形などによる姿勢異常などはBP製剤内服の可能性
重要・既往歴、現在治療中の疾患
→既往歴が以下の疾患に該当する場合は、BP製剤の服用を特に疑おう!
低骨量を呈する疾患
・続発性骨粗鬆症
・悪性腫瘍の骨転移
・多発性骨髄腫
など
続発性骨粗鬆症の原因疾患など
・副甲状腺機能亢進症
・甲状腺機能亢進症
・胃切除後
・骨形成不全症
・糖尿病
・関節リウマチ
・アルコール多飲(依存症)
・慢性腎臓病
・副腎皮質ステロイドホルモン薬による薬物性のもの
など
その他
・骨折
特に関節リウマチでは、長期ステロイド薬を投与
されている患者さんに生ずる続発性骨粗鬆症に
対してBP製剤投与が行われることがあります。
・家族歴…BRONJのリスクファクターからもBP製剤内服を予測することもできる
・嗜好品… 〃
重要・服薬状況、服薬期間
→・BP製剤だけでなく、他の疾患のために内服している薬剤も把握しておく
・BP製剤の服薬期間は、休薬の目安の1つとなるため期間も確認!
2)定期的に服薬状況を確認する
→服薬状況の確認は、初診時だけでなく定期的に行う。
特に長期メインテナンスに入ってしまうと、知らぬ間に全身疾患に罹患して服薬していることもあるのでそれらを見逃さないように。
◆BRONJの予防と治療のガイドライン
※BP治療前、治療中、それぞれに合わせてケアをする
予防:BP治療開始前…感染源を減らすために抜歯や歯周治療などの歯科治療を行い、歯科インプラント、完全埋伏歯抜歯などの侵襲の大きい治療は避け、口腔衛生状態を良好に保つ。
予防:BP治療中…抜歯や高侵襲な歯周治療は可能であれば避ける。そして口腔ケアと定期的な口腔診査を行う。
治療:BRONJ発症後…露出している壊死骨を除去し、クロルヘキシジンでの含漱および抗菌薬の投与を行う。
※軟組織を傷つけないでケアする!!
除石やプラーク除去によって感染源を減らすことは重要だが、BP製剤投与患者に対する侵襲的な歯周ポケットのルートプレーニングの安全性に関するコンセンサスはいまだ得られていない。
経口BP製剤の3年以上の投与やリスクファクターを保有されている患者さんに対しては、侵襲的な治療は避ける。
歯肉縁上のスケーリングにとどめ、軟組織の損傷はできるだけ回避することが望ましい。
セルフケアでは、プラークコントロールを徹底してもらう。
☆進行させないために…
◆ステージ別による治療法
※BRONJにはステージ0から3までの病期があり、ステージによって治療法が異なる。
ステージ0
基準値…骨露出・骨壊死は認めないが、オトガイ部の知覚異常、口腔内瘻孔、深い歯周ポケット、単純エックス線写真で軽度の骨溶解を認める。
治療法…●抗菌性洗口剤の使用
●瘻孔や歯周ポケットに対する洗浄
●局所的な抗菌薬の塗布・注入
ポピドンヨード・0.025%塩化ベンザルコニウムを使用して洗浄
ステージ1
基準値…骨露出・骨壊死を認めるが、無症状。
単純エックス線写真で骨溶解を認める。
治療法…●抗菌性洗口剤の使用
●瘻孔や歯周ポケットに対する洗浄
●局所的な抗菌薬の塗布・注入
ポピドンヨード・0.025%塩化ベンザルコニウムを使用して洗浄
ステージ2
基準値…骨露出・骨壊死を認める。痛み、膿排出などの炎症症状をともなう。
単純エックス線写真で骨溶解を認める。
治療法…●病巣の細菌培養検査、抗菌薬感受性テスト
●抗菌性洗口剤と抗菌薬の併用
●難治例:併用抗菌薬療法、長期抗菌薬療法、連続静注抗菌薬療法
ステージ3
基準値…ステージ2に加えて、皮膚瘻孔や遊離腐骨を認める。
単純エックス線写真で伸展性骨溶解を認める。
治療法…●新たに正常骨を露出させない最小限の壊死骨掻爬
●骨露出・壊死骨内の歯の抜歯
●栄養補助剤や点滴での栄養維持
●壊死骨が広範囲に及ぶ場合:辺縁切除や区域切除
※ステージ0・1に対しては、抗菌性洗口剤の使用や瘻孔および歯周ポケットに対する洗浄、局所的な抗菌薬の塗布・注入があげられており、欧米では高濃度の1%クロルヘキシジン含有含漱剤の使用が推奨されている。しかし、日本ではクロルヘキシジンを主成分とする含漱剤の保険適用はない。
【感想・考察】
数年前、“歯科医師会からのお知らせ”のFAXでBRONJについて知りました。患者さんの中にもBP製剤を服用されている方がいらっしゃるので、BRONJを発症させないために私達が注意すべきことをしっかり把握しておかなければならないと思います。服薬状況の確認だけでなく、口腔衛生状態を良好に保つためのTBIや難組織を傷つけないSRPなど、日々の診療でも意識していきたいです。
衛生士 西内