スタッフレポート

2020年3月

「加齢にともなうリスクをカバーする」について、勉強会で発表して

◎年齢とともに口腔に現れる4つのリスク

1.歯肉の退縮  

 加齢とともに歯槽骨が痩せ、歯肉退縮が現れます。また、歯周病に罹患している場合、歯肉退縮は

 加速します。さらに、歯肉退縮により象牙質が露出すると、根面う蝕のリスクも高まります。

 オーバーブラッシングにより露出した象牙質には摩耗がみられることも多いです。

2.唾液分泌量の低下  

 加齢や薬の副作用、咬合力の低下などが原因で唾液分泌量が減少し、口腔内の自浄作用と緩衝作用が

 低下します。口腔内が乾燥するドライマウスはう蝕や歯周病の進行、細菌の繁殖による口臭の原因に

 もなります。

3.口腔機能や味覚の低下  

 口腔機能低下のはじまりは「オーラルフレイル」と呼ばれ、老化のはじまりを示すサインとして注目

 されるようになってきました。症状としては、滑舌の低下やむせ、食べこぼし、噛めない食品の増加

 などが挙げられます。オーラルフレイルの後につづく口腔機能低下症には口腔不潔、咬合力低下、

 咀嚼機能低下、舌口唇運動機能低下、口腔乾燥、低舌圧、嚥下機能低下が挙げられます。

 また、偏った食生活による亜鉛不足も味覚障害の原因の一つです。

4.治療跡の増加  

 修復物の天然歯質の境目はプラーク付着因子となり、補綴物が多ければ、う蝕や歯周病の発症リスク

 も高まります。高齢者は、長く生きている分、う蝕や歯周病にかかった経験が多いので、補綴修復物

 が入っている確率が高くなります。

 

◎リスクをカバーするセルフケアのアドバイス

1.できるだけシンプルな口腔ケア  

 *セルフケアグッズの選び方   

  ①安全に使えるか   

  歯肉を傷つけたり歯肉退縮を助長したりしてしまう清掃器具ではないか、患者さんの磨き癖を含め

  て確認します。クレフトやフェストゥーンなどの歯肉の形態変化を見逃さないようにしましょう。

  ➁単純に使えるか   

  高齢者のセルフケアでは特に重要な項目です。加齢とともに根気が無くなるのが一般的ですので、

  清掃器具の種類を増やしすぎないように工夫しましょう。  

  ③短時間でできるか   

  歯を摩耗させないために大切な項目です。“お風呂に入りながら”“テレビを見ながら”などの「ながら

  磨き」はオーバーブラッシングの原因になるかもしれません。歯を摩耗させないために力が加わり

  すぎて磨きすぎにならないように注意しましょう。

2.唾液の分泌量の低下を補い、酸蝕を予防  

 食後の口腔内は歯からカルシウムが溶け出し、酸性に傾きます。酸性状態が続くと、う蝕や酸蝕の

 リスクも高まるため、唾液をたくさん分泌させ、臨界pH以上に戻すことが予防につながります。

3.機能低下を補い、舌苔を清掃  

 ご家族に口臭を指摘される患者さんは少なくありません。そして、その原因の6割が舌苔だと言われ

 ています。舌苔は口臭の原因の他に味覚低下の原因になります。舌クリーナーで掻き取るか口腔ケア

 タブレットを舐めてもらいましょう。

4.オーラルフレイルの予防  

 唾液分泌量が低下している患者さんには、唾液腺マッサージをしていただくといいでしょう。まず、

 患者さんの背後から術者が実際に唾液腺をマッサージし、唾液の分泌を実感してもらいます。その

 あとご自分でマッサージをしてもらいます。食前に耳下腺、顎下腺、舌下腺を5〜10回マッサージ

 し、唾液分泌を促します。 また、口腔機能維持向上の目的で「あいうべ体操」を1日30回を目安に

 行うよう指導します。舌の筋肉を鍛え、正しい位置に引き上げることで、口呼吸を防止します。

 お風呂の時間に行い、声を出すと喉周辺の筋肉も鍛えられるので、誤嚥防止の効果もあると考えられ

 ます。はじめは舌や頬に痛みを感じることもありますが、加齢によるたるみが改善するなど、女性に

 とっては嬉しい美容効果が期待できることをお伝えすると、モチベーションが高まるようです。

 

感想

 年齢とともに口腔内のリスクは高まるのだと改めて感じました。高齢者の口腔内の特徴をふまえ、

 患者さんに効率的にセルフケアを行ってもらうためにはどのようにサポートをしないといけないか

 考えていきたいです。

                          衛生士 松本

  2020/03/29   ふくだ歯科
タグ:加齢

「口腔機能発達支援」について、勉強会で発表して

離乳期に注目!歯科医院でかかわりやすいチャンス5

日ごろ生活を送るうえで口腔機能が意識されることはありませんが、離乳食期に感じるさまざまな

困りごとこそ、保護者が初めて口腔機能を意識する機会だといえます。

① 噛まない、丸のみする

この主訴で来院する乳幼児の口腔内を診ると、必ず上下の乳前歯以上の歯が萌出しています。保護者は

「前歯が上下生えているのに噛んでくれない。どうしよう。」という気持ちで来院されるようです。

「噛まない」という場合には、一見、「食材を硬くしたら噛む」とか「軟らかいから噛まない」と思い

がちです。実は、食感の異なる材料や海藻類、小魚や食物繊維が多く含まれるものは、口の中に入ると

自然と噛む回数が増えます。ご飯には、しらすでもひじきでも昆布でも、食感の異なる物を混ぜるだけ

で咀嚼回数は変わります。

② 仕上げ磨きが苦手

仕上げ磨きを嫌がるという場合、単に息苦しさが理由であることもあります。乳幼児期の呼吸回数は

成人の約2倍で、嚥下回数も成人よりはるかに多いのです。 子どもは、歯ブラシを近づけると自然と

息を吸い、歯ブラシが口の中に入ると息を止めたり、鼻呼吸をします。そして、口から出すと嚥下し、

息を吐きます。これを利用し、歯ブラシを口に入れてる間、数を数えてみましょう(年齢+2秒が目安

です)。こうすることで、術者が子どもたちの呼吸をコントロールしてあげることになるのです。

このように、歯ブラシの出し入れと呼吸指導を繋げることで、仕上げ磨きを、スキンシップやう蝕予防

はもちろんのこと、機能の発達にも繋げることができます。歯科医院にう蝕の治療に来て何もできない

子に対して、歯ブラシによるブラッシングからスタートすることは非常に重要です。カウントしながら

の仕上げ磨きは、呼吸指導に繋がるだけでなく、タービンやコントラでの治療や予防処置にも繋がり

ます。

③ 口の中に溜め込み、飲み込まない

手全体で物をつかんでいた赤ちゃんは、下の乳前歯が萌出すると、手指が動くようになります。さらに

上の乳前歯が生え揃う時期になると徐々に手指を使って食べ物を口に近づけようとしますが、思うよう

に口の中に入れられず、遊び食べとなり、やがて上手に手づかみ食べができるようになります。

手づかみができるようになると、「食べやすいように」と“一口サイズ”のおにぎりを用意する保護者が

非常に多いです。ただし、この“一口サイズ”は保護者が考えた大きさです。もしそれが口より小さい、

または口と同じサイズだった場合、子どもは詰め込んでしまいます。その結果、多くの乳幼児が次々と

口の中に溜め込んで、飲み込めなくなったり、溜め込みすぎて、えずいてしまうのです。 この場合は、

まず保護者がコンビニおにぎりと同じ大きさくらいのおにぎりを食べるところを見せた後(模倣)、

子どもにかじらせます。この時子どもがかじった量、これがまぎれもなくその子の“一口サイズ”なの

です。一口量は親が決めるのではなく子どもが自ら決めるのです。そのため、かじれるように、口より

大きなおにぎりを作ってもらうのがポイントです。

④ 上顎乳前歯が萌出しているのに、上唇が山型のまま 歯がなく乳児嚥下しかできない新生児や乳児の

多くは山型の上唇をしていますが、舌や口唇機能が発達するにともなって、次第に上唇が平たく口角が

上がるような口元になっていきます。上顎乳前歯が萌出しているにもかかわらず、いまだに「山型の

上唇」のままの乳幼児は、口腔機能の発達不足が疑われます。 山型の上唇をした子では、食事の際、

上唇を使わずに(捕食せずに)食べていたケースが少なくありません。その場合、上唇を使ってまず捕食

をし噛みちぎり、口唇を閉じて咀嚼・嚥下することが重要です。上顎Bが萌出していれば、すでに

手づかみ食べを始めている前後の時期ですが、スプーン食べに戻って、口唇を閉じる動きを練習し直す

のも一つの方法でしょう。

⑤ 保護者がストロー飲みをさせたがる

口腔機能の発達上は、ストロー飲みは必要ありません。舌まで届くストローで飲むことで、舌を前に

出して飲む乳児嚥下が持続され、大切な成人嚥下機能を学習する機会を奪ってしまいます。 また、離乳

食期における最も重要なことは、D(第一乳臼歯)の萌出までに内舌筋を鍛え、嚥下圧を鍛えることで、

これは口蓋形成にも繋がると考えます。内舌筋や嚥下圧は、捕食したりコップから飲もうとする際に

培われます。コップ飲みの際に口唇を丸く包む動きをすると、自然と舌も丸くなりますが、この舌を

丸める動きや食塊形成としてはたらく舌の形を変える動きが内舌筋の動きです。内舌筋の働きによって

舌のボリュームが増し、舌圧(嚥下圧)に関与するのです。 保育環境などの事情からストロー飲みの必要

性がある際には、上顎Aが萌出したら、家庭では少しずつコップ飲みの練習を始めるとよいでしょう。

まずはスプーンで啜って飲む練習から始め、おちょこ、小さいコップなどで徐々に飲む練習を進めて、

内舌筋を鍛えましょう。

 

〈感想・まとめ〉

口腔機能の発達についての知識が少なく、これまで指導したことはありませんでしたが、レポートした

内容で悩まれている保護者の方は多いと思います。むし歯から口腔内を守るだけでなく、さらに広い

範囲でサポートしていけるよう、勉強していきたいです。

                               衛生士 関口

  2020/03/08   ふくだ歯科
タグ:口腔機能