スタッフレポート

2019年12月

「バイオフィルムを管理する予防歯科」について、勉強会で発表して

う蝕の最新病因論

⒈ う蝕原性菌

     ミュータンスレンサ球菌は間違いなく最強のう蝕源性菌であるが、21世紀になって、ミュータンス

     レンサ球菌以外の酸産生菌も、う蝕発症に関わっていることが明らかになった。

     <20世紀の常識>

     う蝕原性菌

     ・ミュータンスレンサ球菌

     ・ラクトバチラス

      う蝕誘発性糖質

     ・砂糖(ショ糖)

     <21世紀の常識>

      う蝕原性菌

      ・ミュータンスレンサ球菌

      ・ラクトバチラス

      ・ビフィズス菌

      ・Scardovia wiggsiae 種

      ・Actinomyces 種

      ・Veillonella 種

       う蝕誘発性糖質

       ・発酵性糖質  

           ショ糖、ブドウ糖、果糖、調理デンプン

        砂糖(ショ糖)はミュータンスレンサ球菌が不溶性グルカンを作るために必要であるため、う蝕

        予防の食事指導は「甘い物を避けなさい」であったのである。しかし、新たにう蝕原性菌に加え

        られた細菌種は不溶性グルカンは作らず、歯面に付着したバイオフィルムの中で酸を産生する

        ため、ショ糖が制限されても影響は少ない。

 

⒉ う蝕原性バイオフィルムのMicrobial shift

     う蝕原性菌はショ糖だけではなく、他の発酵性糖質(ブドウ糖、果糖、調理デンプン)を摂取して

     乳酸などの有機酸を産生し、歯を溶かす。ショ糖が制限されても、その他の糖質摂取によって、

     バイオフィルムのpHは酸性に傾く。そして酸性環境を好む菌種が増殖しMicrobial shift が起こり、

     う蝕原性の高いバイオフィルムへと変化してしまうのである。

   「甘い物を避けなさい」の食事指導は変わらなければいけない。調理デンプンもMicrobial shift の要因

     となるため、麺類や粉物にも注意が必要。

 

⒊ う蝕の治療

    21世紀になって、う蝕という疾患は「脱灰と石灰化のバランスが偏っている状態であり、う蝕=

    う窩ではない」という考えが浸透した。脱灰因子と防御因子(脱灰を防ぎ石灰化を促進する因子)の

    間のバランス崩壊が、う蝕の発生原因である。 このバランス崩壊はバイオフィルムの周囲環境(特に

    栄養環境)の変化によるMicrobial shift が原因である。

    疾患の治療は病因除去である。う蝕の原因はMicrobial shift であるため、高病原化したバイオ

    フィルムを低病原性に戻すことがう蝕の治療である。つまり、脱灰因子を減らし、防御因子を増やす

    ことであり、削って詰めることではない。 改善すべき脱灰因子は、食事内容・回数(バイオフィルム

    栄養環境)とう蝕原性菌量(バイオフィルムの量)である。また、含嗽剤や唾液分泌刺激などにより

    バイオフィルムのpHを中和に向かわせる工夫も必要である。防御因子の強化には、フッ化物による

    歯質強化、クロルヘキシジンによる殺菌、フィッシャーシーラント処置、生活習慣指導、あるいは

    早期治療などの対応が有効である。

    Microbial shift

    バイオフィルムを取り巻く栄養、温度、嫌気度、pHなどの環境変化によって、細菌達にとって好ま

    しい生育環境がもたらされることにより起こる常在菌。Microbial shiftによりバイオフィルムと歯・

    歯周組織の間の均衡が崩れ、う蝕や歯周病が発症・進行する。

 

感想

    う蝕の予防には脱灰と石灰化のバランスが大切なことが分かりました。防御因子の強化ではフッ素

    塗布をよく行っていますが、患者さんの中にはフッ素を塗っていれば大丈夫と思っている方もいる

    かもしれないのでフッ素の効果に加えて普段の生活習慣、食事習慣についても少し触れていけたら

    と思いました。

                                     衛生士 松本

  2019/12/31   ふくだ歯科
タグ:虫歯予防

「本当に害が少ない?加熱式タバコの実態」について、勉強会で発表して

近年、新しいタイプのタバコ製品群(いわゆる“新型タバコ”)の開発・販売が拡大し、非喫煙者においては

実態が把握しにくい状況です。新型タバコには、各種フレーバー入りの液体を加熱してエアロゾルを

発生させ吸引する「電子タバコ」と、電気的にタバコの葉を加熱したエアロゾルを吸う「加熱式

タバコ」があります。今回は、なかでも注目を浴びている加熱式タバコについて、その特徴や健康被害

などの問題を解説します。

さて、加熱式タバコは、紙巻タバコと比べクリーンで健康に悪くなさそうなイメージがあると思い

ます。それは、おそらく比較的副流煙が少なくヤニ臭さも少ないと広告・宣伝されているからで

しょう。では、本当に加熱式タバコは人体に安全なのでしょうか?

加熱式タバコから発生する有害科学物質に関する情報は、製造・販売元であるタバコ産業からのものが

多いのですが、それらは有害成分の低下が主張されています。たしかに、有害化学物質の発生量は紙巻

タバコに比べれば少ない製品が多いですが、発生する化学物質の種類は大差なく、有害性が比較的低い

科学物質も含めた総重量としても大差ありません。さらに、濃度は低いものの多種類の発がん化学物質

も発生します。

紙巻タバコの喫煙者が加熱式タバコに切り替えたことで「自分は禁煙した」と誤解しているケースが

報告させています。加熱式タバコは、紙巻タバコと異なり、パッケージにニコチンやタールの量は表示

されていません。ですから、ニコチンがどのくらい含まれているかが消費者に伝わりにくいのです。

分析では、いずれの製品も依存性の高いニコチンを相当量吸引することが可能であり、喫煙継続に

つながると考えられます。

これまで家庭内などのベランダや換気扇の下で紙巻タバコを吸っていた人が、屋内で子どもを含む家族

の前で加熱式タバコを使用するケースの増加も報告されています。しかし、加熱式タバコの受動喫煙が

健康へ悪影響を及ぼさないとの確認はされていません。使用者周辺での気道刺激や不快感を含む自覚

症状の訴えは報告されています。受動喫煙曝露を防ぐために、加熱式タバコも従来のタバコ同様の対策

が必要です。

加熱式タバコや電子タバコの使用による歯科領域への影響は、いま現在エビデンスが十分に得られて

いるとはいえません。しかし周知のとおり喫煙そのものは、口腔衛生関連においてもさまざまな悪影響

を引き起こします。口腔・咽頭がん、歯周病、う蝕、歯の早期喪失、インプラントの失敗、歯肉の

メラニン色素沈着、口臭などを引き起こすことが、疫学的に証明あるいは可能性があるとされて

います。歯科は、比較的若年のうちから継続的に繰り返し患者さんを診る機会があり、さらに、口腔は

悪影響を直接本人も一緒に観察することができる部位です。ですから、歯科で患者さんの喫煙状況を

把握し、禁煙の動機付け支援や禁煙外来の紹介・誘導などといった継続した介入・指導が求められ

ます。

 

〈感想〉

加熱式タバコに対して「害が少ない」「禁煙の第一歩」というイメージがありましたので、今回の

レポートでは初めて知ることが多くありました。同じようなイメージを持っている方はたくさん

いると思います。患者さんだけでなく、自分の周りの方にも正しい情報を伝えていきたいです。

                               衛生士  関口

  2019/12/15   ふくだ歯科
タグ:喫煙

予防歯科Q&Aについて、勉強会で発表して

食品に関する質問  

Q:キシリトール入りのガムには多くの種類がありますが、市販品と歯科専売品でどのように違いが

       あるのでしょうか?  

A:歯科専売品は市販品と比べて,う蝕予防効果の向上が期待されます     

      チューインガム(ガム)     

      もともと主にその味と爽快感を楽しむ嗜好品として消費されていた

                   ↓     

      1990年頃から砂糖ではなく代用甘味料が添加された製品が多く販売されるように なった

    (国民の健康意識の高まりを受けて)  

      ガムに添加される代用甘味料

   キシリトール

   ソルビトール

   アスパルテーム     など

       * プラーク中の細菌による発酵性が低く、う蝕の原因となる有機酸が ほとんど産生

                              されないという特徴がある

            * ガムを噛むことにより唾液の分泌が促進される

               ↑     

                       代用甘味料を添加したガムの常用がう蝕を予防すると考えられる

          多くのガムでは複数の代用甘味料がさまざまな割合で配合されている

                     (人々の嗜好に合う甘さにするなどの目的)    

        最近では、代用甘味料以外に

      リン酸化オリゴ糖カルシウム(POS-Ca) カゼインホスホペプチド(CPP-ACP)

                ↑

                                エナメル質の再石灰化を促進させる

      歯科専売品にはリン酸化オリゴ糖カルシウム、カゼインホスホペプチドなどの 成分や

              キシリトールの配合を高めたもの、フッ化物を加えたものがあり、市販品 と比べてう蝕

              予防効果の向上が期待されている。

 

歯磨剤に関する質問   

Q:患者さんから、「歯磨き粉の研磨剤が歯を削ると聞いたから、使いたくない」と 言われました。

      実際、どうなのでしょうか?    

A:一生使っても、健康障害が出るほど歯面が削られることはありません   

      実験では清掃剤(研磨剤)は歯を削るが、一生涯使用しても健康障害が出るほど削れることはない

                 ↑        

      歯ブラシの毛の硬さ、ブラッシング圧のほうが研磨性に影響する  

    日本で販売されている清掃剤の配合割合は、ペーストタイプの歯磨剤では10~60%ですが、現在の

      製品の配合量は以前より少なく、研磨性が低く抑えられている。清掃剤無配合のジェルタイプは、

      歯根露出や知覚過敏などで歯面への刺激を抑えたい患者さんに利用できる。    

 

【感想】    

この「Q&A」は、今話題になっていることや、患者さんから質問されて説明に困ったことなどの疑問

に現在のエビデンスをもとに答えられているので、参考にしていきたい。

                       衛生士 赤木               

  2019/12/04   ふくだ歯科
タグ:予防歯科