スタッフレポート

「はじめよう!メインテナンスでの口腔がん診査」について、勉強会で発表して

        口腔がん診査Q&A解説 ~はじめる前にこれだけは理解しておこう~

 

歯科医院における口腔がん診査の導入について

Q1 口腔がんは、大学病院の先生など専門家が発見するものではない     

   でしょうか?

   がんは病理検査によって診断するもので、口腔がんに似た粘膜疾患は多々あるので、一般の歯科医院で口腔がんを発見することは難しい。

   しかし、口腔粘膜の異変は、歯科医院でも発見できる。なんらかの異変に気づくことが重要。

 

Q2 なぜ歯科衛生士が診査をする必要があるのでしょうか?

   歯科衛生士だけでなく、歯科医師も含めつねに医院のだれもがチェック

   するのが理想。歯科衛生士は、問題のあるところだけでなく問題のない

   部分も含めて全体的に診ていくことができる。定期的に患者さんを診て

   いくメインテナンスシステムも粘膜の変化に気づくことができる大きな

   ポイント。

 

Q3  何歳以上の患者さんで診査を行うべきでしょうか?

   特に注意してほしいのは、50歳以上の方、喫煙者や飲酒を好まれ方。

   全身を含め、がんの既往がある方。胃がんや食道がんの既往のある方は特に注意が必要。

 

Q4 口腔がんの診査を行うことに対し、患者さんは驚きませんでしょうか?

   口腔がんの診査を行うなどと言う必要はない。「歯や歯周組織と一緒に粘膜も診ていきます」と伝える。粘膜の診査は、口腔内だけでなく口腔周囲や首にも及ぶので、前もって、診査を実施する部位(首、頬など)を逐一伝えながら進めるとよい。

 

口腔がん診査の内容

Q5 診査にはどのくらいの時間を要し、何を準備したらよいのでしょうか?

   粘膜の診査は、5分もかからない。メインテナンス時に粘膜や舌、硬口蓋、軟口蓋にも意識を向け、確認する。

   準備は口腔内用ミラー、グローブ、ガーゼ。

  粘膜の診査時に読み取ること

1.      粘膜に傷(潰瘍、びらん、表面の塑像な部分)がないか

2.      粘膜に赤い斑点や赤い部分がないか

3.      こすってもとれない白い斑点や白い部分がないか

4.      周りの健全な組織との境界がはっきりしない「しこり」や

  「腫れ」や「できもの」がないか

5.      抜歯後なかなか治らない部分がないか

 

Q6 何を異常と判断したらよいのでしょうか?

   粘膜の色が白であるか赤であるかを特に診る。できものは必ず触って

   確認する。

   痛みや違和感などの自覚症状は、初期段階ではほとんどない。

   異常が見られた場合は歯科医師に報告し、患者さんに説明してもらう。

   経過観察になった場合、定期的に写真撮影、状態の記録をする。

  経過観察中に粘膜を診るときのポイント

1.      粘膜のただれがないか

2.      場所が移動しない大きな口内炎はないか

3.      粘膜の色の変化がないか

4.      「しこり」や原因のわからない「腫れ」はないか

5.      飲み込みづらい、舌が動きにくくなっているなど機能に対する

  違和感はないか

6.      抜歯後の傷が治りにくいことの原因が不明ではないか

 *粘膜の異常は触って診ましょう

 

Q7 診査ではどこの部位を診たらよいのでしょうか?

   口腔内・口腔外周囲すべてです。患者さんに気になるところはないか

   聞いてから行う。

   また、鼻づまりや鼻出血、顔でしびれている部分がないかも聞いておく 

   とよい。

 

Q8 もっとも注意して診るべきところはどこですか?

   舌。日本における口腔がんの部位別頻度が舌がもっとも高い。ついで

   多いのが歯肉。見落としがちなのが軟口蓋。 唾液腺開孔部付近にも

   できやすいため、口底、口蓋の唾液腺開孔部にも注意する。

  

Q9 よくある口内炎にも見え、わざわざ歯科医師に診てもらう必要があるのか判断に困る場合、どうしたらよいのでしょうか?

   口内炎であっても歯科医師に診てもらうのがよい。診てもらえない場合は、写真撮影しておき、後で見てもらうなどの対応をする。患者さんにはなかなか治らない場合は、来院をしてもらうよう伝える。

 

Q10 どのぐらいの間隔で実施したらよいのでしょうか? 3ヶ月リコール時に毎回必要ですか?

   “診査をしすぎる”ということはない。リコールごとに行うとよい。

   一般的にがん検診は1年に1回です。最低でも1年に1回は実施して

   ほしい。

口腔がん診査の実施後の対応について

Q11 粘膜に異変が見られ、患者さんに「口腔がんかもしれない」と伝えた

   場合、いらぬ不安を与えてしまいませんでしょうか?

    不安をあおるような発言は避け、異常に気づいた部位の様子や体調を聞き、歯科医師にバトンタッチする。

 

Q12 粘膜に異変を発見後、専門医で病理検査をしてもらいました。結果、

   がんではなかった場合、患者さんからクレームは来ないでしょうか?

    がんでなかったためにクレームがくるということは考えにくい。

    病理検査を促す際に患者さんにどう伝えるかによる。

    例●「粘膜に異変が見られるので、安心するためにも一度詳しく検査をしてもらいましょう」

     ●「がんかもしれないので、詳しく検査をしましょう」

                 ↑

         患者さんの受け取り方は異なる

 

Q13 病理検査が必要となったとき、患者さんはスムーズに受けてくれるもの 

   でしょうか?

    明らかに重篤な状態で、大学病院等の受診を促されているのに受診

    されない患者さんがまれにいます。場合によってはがんの可能性を

    伝える。緊急性を要するとまではいかないが検査をうけたほうがよい 

    という場合でも患者さん自身が判断して受診しない場合、写真を

    定期的に撮り、その変化を見せて検査を促していく。

 

 

【感想】

  日本では年間7000人が口腔がんに罹患していて、30年前の統計と比較

  してみると3倍に増加しており、このままいけば10年後には12千人

  以上が口腔がんに罹患すると予測されるそうです。

  アメリカなどの先進国では口腔がんの死亡者数は減少しています。これは

  国を挙げて積極的な口腔がん対策による早期発見、早期治療が行われて

いるからではないかということです。

歯科衛生士はメインテナンスなどで患者さんの口腔内を隅々まで見る機会

があるので、患者さん自身より異変に気づきやすいと考えられます。

口腔がんは命を奪う恐ろしい病です。これを第一発見できる歯科衛生士

には大きな責任があるので、今以上に注意深く診ていく必要があると

思いました。                  衛生士 赤木悦子   

 

  2012/04/11   ふくだ歯科
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