感染源としての歯科用ユニット給水系(DUWLs)
歯科用ユニットを用いる際には電源と圧縮空気、そして水が必要不可欠である。その水を供給するのが
歯科用ユニット給水系(Dental Unit Water-lines:以下、DUWLs)であり、水源には一般的に水道水が
用いられる。 現在世界には200か国近く存在するが、そのまま飲用可能な水道水を供給しているのは
日本を含め9か国に過ぎないとされる(諸説あり)。日本の水道水は、浄水場で、河川などから採取した
水を上水道へ供給可能な状態にするための処理が行われている。この時、消毒目的で用いる塩素剤
(次亜塩素酸ナトリウムなど)が水と反応することにより生成されるのが遊離残留塩素である。これは、
強い酸化力により殺菌・消毒の効果を発揮することが知られており、水道水が安全である理由の1つに
挙げられる。 しかし、残留塩素は時間の経過や有機物の存在などにより減少することが知られている。
いかに安全な日本の水道水であっても、適正な残留塩素濃度が維持されていなければ消毒効果が失われ
てしまい、重大な事故に繋がる可能性が高くなることを認識すべきである。
DUWLsが汚染される理由
一般的にDUWLsを構成する給水チューブの総延長は6~7mに及ぶ。その長大な内部に存在する水
は、夜間や休診日などの給水停止時に停滞し淀むため、それが水質の悪化を助長するとされる。 具体的
には、滞留水の残留塩素濃度が低下することで微生物が増殖し、その後給水チューブ内壁にバイオ
フィルムが形成され付着する。水道水に添加されている残留塩素のみではバイオフィルムの形成を阻害
できないと考えられているが、これが 汚染の理由の1つとされている。 さらに、そこから落屑した
微生物がハンドピースなどを通して水とともに放出されると、最悪の場合は健康被害に発展する。
DUWLsが原因とされる健康被害
今までに報告された健康被害には、一過性の感染から死亡例までいくつかの報告がある。 このうち
感染者数が1番多かったのが、米国ジョージア州アトランタにある歯科診療所で歯髄切断処置をうけた
24人の子どもにMycobacterium abscessusの感染が認められたケースである。感染者は頸部リンパ
節炎や顎骨骨髄炎、また肺結節を患っており、ほとんどは感染した組織を除去するために少なくとも
1回の外科的介入を必要とした。 また、3件報告のある死亡例は、すべてレジオネラ肺炎によるもので
ある。
一般的な対策方法と問題点
1. フラッシング
DUWLs内の滞留水をタービンホースやコップ給水などから排出させること。残留塩素濃度の低下
した水を水道水質基準に適合した水に入れ替えることができるため一定の効果はあると思われ、実際
に30秒水を放流すると検出される菌数は1桁減少することも知られている。 しかし、これは給水
チューブ内壁のバイオフィルムを除去しているわけではないのでこれだけでは不完全だと考え
られる。
2. ショックトリートメント
薬剤を用いてDUWLs内に形成されたバイオフィルムの除去を行う方法で、汚染対策としての評価は
高い。 しかし、使用する薬剤によっては環境負荷が高く、そのまま下水道に排出できない場合が
ある。また、バイオフィルムを除去したとしても、次の瞬間からバイオフィルムの形成は再開されて
しまうので、定期的に行う必要性も生じる。
3. 薬剤を用いる方法
4. 電解機能水を用いる方法
当院で採用しているPoseidonも電解機能水を用いた方法のひとつである。 Poseidonは水道水その
ものを電気分解し、中性電解水を生成する装置である。水道水の中に含まれる塩化物イオンが電気
分解により塩素に変化し、これがすぐに水と反応して次亜塩素酸や次亜塩素酸イオンとなることで、
遊離残留塩素濃度を補正し消毒力を高め、DUWLsへのバイオフィルム形成および付着が防止
される。
まとめ
水中の細菌などは目視できないためあまり意識したことはありませんでしたが、レポートを書くに
あたって参考にした資料などで、何も対策をしなかった場合のうがいの水やタービンから出る水が
かなり濁っていたのをみて衝撃を受けました。 お水以外でも、患者さんに安心して通院していただける
ように感染対策をしていかなければならないと改めて感じました。
衛生士 星島