日本人と歯周病
外国人から日本人の口臭は臭いと思われている。口臭の主な原因は歯周病、歯周病が認知症に悪化
する研究結果が出ている。 日本は口内ケア後進国。日本に住む外国人100人にアンケートし、日本人
の口臭にガッカリした人は68人、口臭のせいで日本人とキスしたくない人は43人いた。口臭の原因は
歯周病の可能性がある。
歯周病とは
歯周病の原因は歯と歯茎の間に生息している細菌。症状は口臭と歯茎の腫れだが自覚症状が現れ
にくい。歯周病の人は、60代が90%、30~50代は約80%、20代は70%。歯周病は世界で最も患者
が多い感染症としてギネス認定されている。
アルツハイマー病と歯周病①
アメリカのルイビル大学の研究チームが慢性歯周病の原因細菌がアルツハイマー病患者の脳で確認
した。また同じチームがマウスに歯周病の原因細菌を感染させた実験を行ったところ、6週間後に
脳内で歯周病の原因細菌を確認され、アミロイドβも著しく増加していた。アミロイドβとはアルツ
ハイマー病を引き起こす物質である。 アミロイドβは脳内に蓄積すると、脳の炎症に関わる細胞が
活性化されて脳内に炎症反応が生じ、結果として正常な神経細胞が破壊されて脳の萎縮が起こると
されている。
アルツハイマー病と歯周病②
アメリカの製薬会社コルテキシムの研究チームは慢性歯周病の原因細菌が作り出す毒素が96%の
アルツハイマー病患者の脳で確認した。ジンジバリス菌がタウというタンパク質を分解し、沈殿を
させていくという。タウタンパク質は中枢神経細胞(脳と脊髄)に多量に存在し、脳の神経ネット
ワークを構築する神経軸索の機能に必須なタンパク質。タウタンパク質に異常が生じると細胞内で
不溶性の凝集を作り、軸索輸送がうまくいかず、神経細胞の死を招くという。
軸索輸送…神経細胞の長い突起である軸索の内部で行われている、活発な生体分子の輸送。軸索の
構造や機能の維持に
必須の役割を持つ。
脳への通過と蓄積
すべての物質は脳内に入る際に、血液脳関門と呼ばれる “関所”を通過しなくてはならない。これは、
脳へ血液中の有害な物質が入らないようにして、大事な神経細胞を防御する機構である。このように
脳に行く血管には防ぐ組織があるが、リンパ管は素通りしてしまうためリンパ管で行っていると
見られているという。また、正常な人でも慢性歯周病の原因細菌によってつくられる毒素がアルツ
ハイマー病患者の10分の1程度あるという 。 認知症は発症する20~30年前から脳内にアルツ
ハイマー病の原因物質の蓄積が始まるという。アルツハイマー型認知症の高い発症率を示す年齢層
は、70歳代である。そのため、認知症の発症予防のためには、遅くとも50歳代で歯周病がコント
ロールされていなければならない。
認知症リスクのその他の要因
高齢者において、残っている歯が少ないほど、記憶や学習能力に関わる海馬、意志や思考の機能を
司る前頭葉とよばれる脳の一部の容積が小さくなることが分かっている。つまり、歯を失い物が噛め
なくなると、脳への刺激が減少して脳の働きに影響が生じ、その結果として、アルツハイマー型
認知症のリスクが増すということだ。 歯の数が少ないと認知症を発症しやすいというデータもある。
2003年に愛知県の65歳以上の健常者を対象に、4年間にわたって認知症が発症するまでの日数を
調べたものによると、歯がなくて入れ歯も使っていない人は歯が20本以上ある人と比べ1.9倍、
あまり噛めない人はなんでも噛める人と比べ1.5倍、かかりつけの歯科医師がいない人はいる人に
比べ1.4倍認知症になりやすいという結果が出ている。
歯周病による認知症以外の病気リスク
その他にも歯周病は心筋梗塞・脳梗塞のリスクが2.8倍ある。歯周ポケットから歯周病菌や毒素が
血管に行き、血管内で炎症を起こし、悪玉コレステロールが発生して血管が詰まる原因になる。肺に
入ると誤嚥性肺炎、妊婦は早産などが2倍から3倍になるという。 細菌のコントロールはもちろん、
機能面の改善も含めて、口のなかを良い状態に整えれば、認知症の発症を遅らせたり、予防にも
つながる可能性がある。しっかり噛むこと、そして歯磨きなどの口の中のケアはとても大切である。
【感想・考察】
歯周病が様々な病気に影響することは知っていたものの、今回のレポートで認知症との関係性に驚か
されました。特に、歯周病による脳への影響や認知症のメカニズムを詳しく調べることができ、大変
勉強になりました。だいぶ知られてきているとはいえ、中には「歯が悪くなったら入れ歯にして
しまえばいい」などと安易に考えている人もおられます。その『歯』が悪くなる前の早めの予防が
QOLの向上に不可欠なのだと感じました。
衛生士 河本