「歯科における感染対策とマニュアルについて」
歯科領域における医療安全
◆標準予防策の実施
◆抗体価検査・予防接種(医療従事者、研修生、学生など)
B型肝炎、麻疹、風疹、水痘、流行性耳下腺炎、インフルエンザ
◆針刺し、切創対策
針捨てBOXを設置、安全装置付き機材を使用、危険物の分別を徹底
◆院内感染防止マニュアルの作成、定期的に見直し改定
◆スタッフへの研修会を実施
感染対策の不備による経営への影響
1.保健所の立ち入り検査、改善指導
◇院内感染対策指針・マニュアルの確認
◇整備されていない場合
新規開業時は開設が認められないケースあり
作成するように指導を受ける
2.医療事故・訴訟のリスク
◇院内感染発生時は診療所の評判を落とすことにつながることがあり、 感染した患者が診療所に
対して、損害賠償を求める医療訴訟も増加している
◇スタッフの安全を脅かす(スタッフからの医療訴訟)
スタッフの定着率の低下
感染対策の基本
標準予防策(Standard Precaution)スタンダード プリコーション
すべての人の湿性生体物質(血液・体液・汗を除く分泌物・排泄物・唾液・創傷のある皮膚・粘膜)
は、病原体を含んでいる可能性があり常に感染の可能性がある
問診表の感染症情報は正しいのか?
・多くの患者は感染症を持っているのか知らない
・HIVの場合、申告しない患者が多い
・我が国では、C型肝炎やHIV、梅毒が増加している
標準予防策の遵守
手指衛生の徹底…適切なタイミングで適切な方法
→アルコール手指消毒、石けんによる手洗い
適切な防護具の着脱…曝露のリスクに対する防護具の選択と適切な着脱
→エプロン・ガウン、手袋、マスク、ゴーグル
*目は粘膜なので感染のリスク多
手指衛生(手指消毒・手洗い)
*手に目で見て汚れがない場合…擦式消毒用アルコール製剤で手指消毒
*手に汚れがある場合…流水と石けんで手洗い
・手洗いより、手指消毒の方が滅菌効果が高い
・手洗いより、手指消毒の方が手に優しい…保湿成分あり
・手洗いより、手指消毒の方がアクセスが良い
手指消毒…どこでも使える、洗い場まで行かなくて良い
手指衛生のタイミング
◇治療の前後
◇手袋を着用する前と手袋を外した後
◇歯科治療室や歯科技工室から離れる前
◇汚染された可能性のある環境表面や機器に触れた後
◇勤務に就く時、帰宅する時
◇食事やトイレの前後など
*迷ったら、手指衛生を行う習慣をつける
→自分の手が不潔か清潔か考える…自分だけが安全ではいけない
触ったところは全て不潔となってしまう
針刺し・切創予防策
針刺しによる感染率
HBV > HCV > HIV
1~62% 1.8% 0.3%
血中ウィルス感染症の感染経路
・経皮的曝露=針刺し切創事故
・経粘膜的曝露=眼粘膜、口腔粘膜など
・既存の創傷部位への曝露=あかぎれ、かさむけ
リキャップに関連する事例
・リキャップ時に的が外れて刺傷
・リキャップ時に針がキャップを突き抜けて刺傷
・リキャップ後キャップが外れてしまい刺傷
歯科医院での針刺し・切創事例
歯科医師の84%、コ・デンタルの72%が針刺し切創を経験
歯科医師…診療時間中の針刺し切創が多く、器具使用中や交換時に多い
コ・デンタル…診療時間後も多く片付け、器財洗浄・消毒時に発生
世界的に歯科医師のB型肝炎発生率は「一般集団」より高く、米国6倍、ドイツ4倍、日本2.5倍と
有意に高い。
医療従事者の中でも歯科医師のHBV感染が最も多い。
発生後の対応
◆HBV(+)
HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)を48時間以内に注射。
体内に侵入したHBウィルスをHBIGで中和排除することによりHBウィルス 感染を予防できる。
HBsワクチンを事故直後~7日以内、1か月後、6か月後の3回投与。
◆HCV(+)
専門医と相談。インターフェロンは推奨しない。抗ウィルス剤の内服投与。
(一日約73,000円:8週間)
◆HIV(+)
3剤併用による抗HIV療法、感染予防にも4週間行なう。
針刺し切創後、1時間以内、遅くとも2時間以内に開始する。
◆梅毒トレポネーマ(+)
ペニシリン系抗生剤の内服投与
滅菌法の概念
無菌→生育可能な微生物が存在しない状態
滅菌→微生物を殺滅し無菌状態とするプロセス
滅菌物の管理方法(保管・取り扱い)
・埃の多いところ(電気製品周り)、水周りを避ける
・滅菌バッグを破損させるような取り扱いをしない
(折れ曲げる、輪ゴムでまとめる)
・バッグごとでも落としたら不潔
・濡れた(汗も)手で触らない
・濡れた痕跡のあるものは不潔物
・バッグにマジックインクなどで書かない…不潔になってしまうから
(滅菌前にシール欄外のフィルム面に記入)
滅菌器使用の原則
・滅菌する器材は十分洗浄する
・器材を十分乾燥させる(濡れている器材は滅菌できない)
・積載量はチャンバーの70%以内
・滅菌物を積み重ねない
・滅菌バッグはフィルム面を上に
・乾燥不良は再滅菌が必要
乾燥不良の原因→過積載、乾燥時間が短いなど
酸性水 (強/弱酸性水・電解水・イオン水・アクア水・機能水)
・環境消毒、器具消毒、創部・口腔内の消毒
低濃度の塩素による消毒法
有機物が残存していると消毒効果は期待できない
塩素濃度が低下するため保管できない
【感想・考察】
今回の研修会・レポートを通して、普段何気なく行なっている手指消毒や滅菌について改めて考える
良い機会となったと思います。手指消毒のタイミングや滅菌物の取り扱いなどは特に勉強になり
ました。自分が今、不潔なのか清潔なのかというところを何気なくではなく、より意識して行なって
いく必要があると感じました。また、針刺しなどからの感染の危険も十分に考え、毎日の診療を、
慣れた作業ではなく、危機管理意識を持って取り組んでいきたいと思います。
衛生士 河本