スタッフレポート

歯科医療安全研修会(H.30.2.18 開催)に参加して

複雑化する有病者歯科治療の現状 ~観血的処置において問題となる薬剤を中心に~

安心・安全な歯科医院とは?

・説明がしっかりとなされ、患者の疑問や質問にも丁寧に答えてくれる

・基本的技術や考え方がしっかりしている

・待たせない、痛がらせない、外れない

・全身状態に気を配りながら治療してもらえる(外来診療環境体制が整っている)

・感染対策がしっかり行われている

・医療安全対策がしっかり行われている    …等々

歯科・口腔外科的治療の特殊性

・歯科、口腔外科的治療の術野は気道や食堂と重なるため非常に危険な領域である。

   これまでにも偶発事故による多くの死亡例が報告されている。

・歯や補綴物の誤飲や誤嚥などの偶発事故も多い。

・非常に細菌数の多い領域であり、高齢者や多数の薬剤を服用している患者さんへの出血を伴う

    処置も多い。

・歯科医療も多様化。 デンタルインプラントなど外科的処置も増えて治療内容も複雑になってきた。

この10~20年間の大きな変化

1.疾病構造の大きな変化―超高齢化

2.心筋梗塞や脳卒中で死亡することが少なくなった

       病状悪化や再発防止の理由から抗凝固薬(ワルファリンカリウムetc.)や 抗血小板薬

    (アスピリンetc.)は休薬しない

3.がん患者の急増

       BP製剤や分子標的薬など歯科医師の頭を悩ませる薬剤の登場 昔ほど病気を放置してコントロール

      不良な状態で受診することは少なくなったと思われるが、病状を薬剤でコントロールしている

      ため、副作用対策や併用禁忌・注意薬などに関する知識も必要になった。

抜歯時、ワルファリンを中断した場合、どのような合併症が起こるか?

    ワルファリンは心房細動患者において脳卒中のリスクを70%減少させることが知られている。従来、

    ワルファリン服用患者においてはワルファリン投与を数日間中断し、血液凝固機能を回復させてから

    抜歯が行われていた。しかし、論文で出された1%程度の患者において抜歯のためのワルファリン

    中断により、血栓塞栓症が発症し得るという事実を、極めて重大に受け止めるべきである。

    そのような事実に基づいて歯科の立場としては、ワルファリン継続下での抜歯を行うべきである。

    しかし、ワルファリンを休薬することに怖さを感じる一方で、ワルファリン継続下での抜歯にも危険

    が伴う。

    一例:歯科医院で歯肉腫瘍切開を受けた患者さんは再受診の際、大量に吐血し、救急搬送された。

              …傷口からずっと出血し続け、それを飲み続けて胃で固まっていたものを吐いたと思われる。

               そのため、確実な止血縫合処置が重要である。

    圧迫ガーゼの当て方             

    ガーゼを丸めてピンポイントに当てる                    

    抜歯窩に当たっていないのは、適切ではない

止血困難症例に遭遇した際の全身的対応

・通常ならアドナ(止血剤)、トランサミン(止血剤)内服処方あるいは点滴投与。

   しかし、抗血栓療法を受けている場合トランサミンの使用はふさわしくない。

・ワルファリンに関しては循環器主治医に対診して、休薬ならびにビタミンK投与の可否を検討して

    頂く。

・新抗凝固薬(ビタミンKに影響を受けない)に関しても、休薬の可否を循環器主治医に打診。

※緊急の場合は2次医療機関へ紹介する。

    処置だけでなく全身状態の管理が重要になる。

骨吸収抑制薬関連顎骨壊死

   BRONJ → ARONJ

   原因薬剤はビスホスホネート系に限るものではなくなったため、名称が変更となった。

   総合的名称としては、MRONJ(薬剤関連性顎骨壊死)となる。

骨粗鬆症とは

    血液中のCa濃度が低下→破骨細胞が活発…骨からCaを取り出すよう働く。

                                                      ↓

    骨吸収が生じる→骨芽細胞が活発になる…Caを骨に蓄えるため

    様々な要因によりこのバランスがうまく保たれなければ骨粗鬆症になります。

骨粗鬆症治療薬(ビスホスホネート製剤)

    作用…服用すると骨にくっつき、骨を壊す破骨細胞が働きすぎるのを弱める。

    効き目…骨形成と骨吸収のバランスを保ち、骨を健康にして骨折を予防する。

ARONJとは

    発生の仕組みなど未だ不解明である。

    顎骨壊死になりやすい要因としては、抜歯・インプラントなどの傷口、虫歯、歯周病etc.

    ビスホスホネート製剤を服用中、抜歯などをきっかけに細菌に感染しやすくなり、感染してしまう

    と粘膜に穴が開き、壊死した顎骨が露出する。露出が起きると強い痛みで食事が難しくなり、歯が

    抜けたり、顎の皮膚に穴が開いて、骨が露出したりする。放置し悪化すると死亡例もあるという。

    口腔状態を清潔に保つことが求められるが、高齢者には限界があり、難しいと考えられる。

高齢者や循環疾患を有する患者さんへの歯科治療の基本

・ストレスを可能な限り少なくする。

・治療前・治療中・治療後の痛みを少なくする。

・データによるとストレスがかかる強さは…

   1.局所麻酔を使わない窩洞形成

   2.埋伏歯抜歯

   3.小手術

   4.局麻下での窩洞形成

   5.局麻のみ

   6.根治

   7.スケーリング      の順となっている

・歯科医師の予測と患者が感じるストレスの程度は一致しない

・重篤な循環器障害を持つ患者では、以前は午前中の診療が良いとされていたが、午後の方が安全

   である。また冬期に心臓疾患による突然死が多い。

 

【感想・考察】

   今回の研修会では薬剤関連や症例などが多く、難しい内容であったと思います。特に、ARONJに

   ついては聞いたことがあってもよく理解出来なかったので、個人的に調べた内容も共にレポートに

   しています。話を聞く中で感じたのは、患者さん本人が、現在受けている治療と歯の治療との関連性

   を知らない可能性もある為、一つ間違うと大きな医療事故に繋がる恐れがあることを知り、患者さん

   の服薬状況をしっかりと問診する必要性を強く感じました。その為にも、より傾聴する姿勢と、患者

   さんとのコミュニケーションの重要性を改めて再確認できました。

                                             衛生士   河本

  2018/07/04   ふくだ歯科
タグ:医療安全