通常の場合の菌血症
一過性の菌血症の場合、血管に入った細菌は高速度で全身を循環し、多くは肝臓に捕獲 されて処理
され、生体防御機構により速やかに排除される。したがって健常者では、た とえ菌血症が発症した
としても、大事に至らずに済んでいる。
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血管内の細菌が適切に処理・排除される
高齢患者さんの場合の菌血症
免疫力の低下や歯周疾患および全身疾患の高い罹患率などさまざまな要因が重なること によって、
菌血症の危険度が高まる。
高齢患者さんにおけるリスクとはどんなものか?
リスク1・口腔内の細菌数が増加しやすい!
加齢にともなう唾液の分泌機能の低下によって、自浄作用が低下し、口腔衛生状態 が悪化し
やすくなる。その結果、知らず知らずのうちに口腔内の細菌数が増えてい る。また、身体機能
の低下によってセルフケアが十分に行えず、清掃不良となっ て、リスクが高まる場合もある。
リスク2・全身疾患で免疫力が低下し、菌血症が一過性でなくなる!
歯周疾患の他に全身疾患を有している方も多い。全身疾患があると、免疫力が低下 しやすく
なる。そのため、健常者と違って、血管内の細菌が生体防御機構をすり抜 けて臓器に定着して
しまうため、菌血症が一過性で終わらない可能性が高い。
リスク3・薬剤による悪影響が出やすい!
多くの高齢患者さんが、複数の薬剤を服用している。そのため、薬剤の相互作用が 起き、抗菌薬
の予防投与の効果が減弱する可能性がある。また、人によっては、抗 凝固薬や降圧薬内服により
易出血性となった結果、歯肉出血に影響してくる。
*こんな患者さんも注意!
心臓弁膜症や先天性心疾患のある患者さん
関節症、骨頭壊死、関節リウマチなどの疾患をもった患者さん
抗菌薬の予防投与について正しい知識をもとう!
*抗菌薬の予防投与を行うべき患者さんを知っておこう!
抗菌薬の予防投与はすべての高齢患者さんに適応されるわけではない。年齢にかかわら ず、観血処置
の1時間前に抗菌薬の予防投与を行うべき患者さんは・・・
①感染性心内膜炎の最高リスク群に該当する患者
人工心臓弁置換患者、感染性心内膜炎の既往を有する患者、チアノーゼ性先天性 心疾患の
患者、体循環系と肺循環系のシャント作成手術を受けた患者
②感染性心内膜炎の高リスク群に該当する患者
先天性疾患を有する患者、閉塞性肥大型心筋症の患者、後天性弁膜症の患者、
弁逆流をともなう僧帽弁逸脱症の患者
③感染性心内膜炎のリスク群に該当する患者
長期にわたる中心静脈カテーテルを留置している患者、
人工ペースメーカーあるいは植え込み型除細動器を使用している患者
④人工関節を有する患者
⑤糖尿病など歯周病関連の全身疾患を有する患者
*抗菌薬の種類を把握しておこう!
抗菌薬の予防投与が必要となった患者さんには、歯周治療の1時間前にあらかじめ処 方された
抗菌薬を服用しておいてもらう。
第1選択 アモキシシリン(ペニシリン系)
第2選択 *患者さんがペニシリンアレルギーを有する場合
クリンダマイシンリン酸エステル(リンコマイシン系)
セファレキシン(セフェム系)
アジスロマイシン(15員環マクロライド系)
クラリスロマイシン(マクロライド系)
*抗菌薬の投与には限界があることを知っておこう!
抗菌薬を投与しても菌血症を完全に防ぐことはできません。菌血症予防の基本は、い かに口腔内の
細菌数を減らし、血管中に細菌が流れ込むのを食い止め、生体を守るか ということにある。した
がって、抗菌薬だけに頼らず、できる限り口腔内に細菌がい ない環境をつくることが重要である。
【感想】
菌血症ではたいていの場合、症状がみられないので、高齢患者さんなど抵抗力の弱い方 や、合併症の
リスクがある方には、とくに口腔衛生状態を健常に保つよう今以上にアプ ローチしていく必要がある
と思った。
歯科衛生士 赤木