医療安全の意義
安全文化
◆食の安全、機械・機器の安全、運輸の安全、生活の安全、通信の安全、住居の安全など、安全
管理は医療のみならず、全ての分野での基盤である。
◆安全管理なくして発展はない。
医療安全管理体制のポイント
◆システム的な対策
1.エラーを起こしにくい工夫
2.何重もの対策
◇スイスチーズモデルを思い出せ!
◇エラーは「よりによって」で発生する!
スイスチーズモデルとは=よりによってすり抜ける事故…いわゆる穴あきチーズ
…事故の発生は通常、何層かの防御壁によって防がれているが、各層の防御壁に潜在
的な穴が開いていたり、突発的に穴が開いてしまうことがあり、重大な事故は各層
の穴が一直線上に並んだしまった際に起こると考えられる。
3.エラーを未然に防ぐダブルチェック
◆エラーの予知…インシデント(ヒヤリハット)の収集
・ハインリッヒの法則から、インシデント(ヒヤリハット)の多発は重大な事故の前兆と考えら
れるので、インシデントを積極的に収集し、対策を立てることが重要である。
ハインリッヒの法則 ・産業災害(労働災害)の事例の分析で用いられている法則で、1件
の重大事故の背景には29件の小事故が発生しており、さらにその背景には、ケガに至ら
なかったヒヤッとした300件の事例が存在している。
◆組織的な医療安全管理
・研修会の開催 ・情報、データの収集 ・指針、マニュアルの提示 ・指導
医療事故の原因
◆ヒューマン・エラー(人に起因して起こるエラー)
◆医療技術・知識の低さ
◆コミュニケーション不足
・医療従事者-患者(インフォームドコンセントの不足)
・医療従事者-医療従事者(伝達ミスなど)
◆診療システムに起因
◆ネットワークに起因
◆施設・設備に起因
◆器械・器具に起因
高齢者の特徴
◇予備力(心肺予備力)が低下している
◇全身疾患を有している割合が高い
◇常用薬の種類が多く、薬物療法の既往がある
◇在宅要介護者が増加している
初診時の全身的な評価
◆全身状態(全身疾患を含む)の聴取
・心肺予備力:NYHA(ナイハ)分類、Hugh Jones(ヒュージョーンズ)分類、身体活動能力
・全身疾患(基礎疾患)
・アレルギーの有無
・以前の歯科治療時の全身偶発症の有無:問診
・妊娠の有無 ◆常用薬のチェック
◆内科主治医への対診(照会)
◆初診時の全身評価・検査
身体活動能力による術前評価
◇心不全を有する高齢者の歯科診療に際し、患者の身体活動能力を評価し、身体活動能力が低い
患者に対しては、歯科診療に伴って心臓合併症が発症するリスクがあるため、予定の歯科治療を
中止あるいは延期し、内科主治医に対診する必要がある。
◇4METs(メッツ)の運動が耐え得ない患者は、手術時の心臓合併症の発症のリスクが高くなるため、
身体活動能力の低下の程度と手術の内容とを対比し、十分な術前評価を行わなければならない。
例えば 1METs→安静にしている状態
4~5METs→階段を休まず上れる
予備力評価で患者を診る
◆歯科医院に歩いて通院できる患者の予備力は十分ある。
◆特に、2階の診療室まで、歩いて休まず上れる患者はまず大丈夫。(予備力がある)
↓
◆外来通院患者では重篤な全身的偶発症の発症率は低い。
しかし、
◇在宅要介護高齢者では、予備力の評価が難しい。
◇予備力の非常に低い患者がいる。
◇全身的偶発症の発症が増加する可能性がある
バイタルサイン
・意識・呼吸・脈拍・血圧・体温
バイタルサインの順番(心停止を想定する)
意識がない→応援→呼吸していない→人工呼吸→脈拍がない→胸骨圧迫
「意識」の有無
・意識がある→心臓は動いている(心停止はない)
・意識がない→心停止しているかもしれない…すぐ救命措置
・意識レベル→意識障害(何か変?)の有無…脳卒中の有無
歯科に関連するアナフィラキシーの原因(アレルゲン)
◆抗菌薬・鎮痛薬
◆局所麻酔薬
◆歯科用局所麻酔剤の添加薬・添加物
◆消毒薬(クロルヘキシジン、イソジン)
◆他の材料(ラテックスなど)
アナフィラキシーの症状
◇初期症状:死んでいくような不安な感じ、金属臭様の味、倒れそうな感じ、めまい間、発汗
◇皮膚・粘膜症状:紅斑、発赤、掻痒(ソウヨウ)、蕁麻疹、顔面浮腫、口唇及び舌の腫脹
◇循環器症状:血圧低下、不整脈、胸部絞扼感、循環虚脱
◇呼吸器症状:上気道浮腫、嗄声(サセイ)、喘鳴(ゼンメイ)、呼吸困難、気管支痙攣、
wheezing{(ワィーズィング)…吸気時に聴診器なしで聞かれる異常呼吸音}、呼吸停止
◇鼻症状:鼻の掻痒、鼻閉、鼻水
◇消化器症状:悪心、嘔吐、腹痛、下痢
◇中枢神経症状:昏迷、意識消失、痙攣
院内感染対策の基本
・感染を拡大させないための予防策を常に(どの患者に対しても)講じておく必要があり、感染源の
消滅と感染経路を遮断することが院内感染対策の基本である。
・CDC(米国疾病管理予防センター)が提唱した「スタンダード・プリコーションズ」が広く用い
られている。
スタンダード・プリコーションズ(標準予防策)
◆感染症に罹患している患者とそうでない患者を区別することなく、すべての患者に対し、
標準的に講じる疾患非特異的な感染対策の基本的指針である。
◆手指衛生が重視されており、手指衛生を十分に行なうことで医療従事者自身を感染から
守ると同時に、感染を伝播させない。
滅菌と消毒
滅菌:いかなる形態の微生物生命をも完全に排除または死滅させる。器具等の滅菌には、
高圧蒸気滅菌が適用されることが多い。
消毒:ほとんどの細菌、ウィルスを死滅させるが、芽胞は存在する。
アルコール製剤が使用されることが多い。
血液などによる汚染には、0.1%次亜塩素酸ナトリウム液(金属の腐食に注意)を
使用する。
手指衛生
CDC(米国疾病管理予防センター)は、医療従事者の手指衛生には、従来の石けんと流水による
ものから、アルコールベースの速乾性擦式手指消毒剤の使用を第一選択として勧告している。
〈速乾性擦式手指消毒剤による手指消毒〉
・速乾性擦式手指消毒剤を2~3mlとり、手指全体に薬液が十分に行き渡る様にし、乾燥する
まで擦り込む。
・より清潔が求められる処置をする前には、石けんで洗い、手を十分乾燥させた後、速乾性擦式
手指消毒剤を使用する。
・手袋を外した後も、速乾性擦式手指消毒剤による擦式手指消毒が勧められている。
【感想・考察】
前回の講習会レポートに続き、今回は同日講演の第2部をまとめることが出来ました。講演では、
想像していた内容とは趣を異にして、高齢者の特徴と予備力という観点を取り上げており、大変興味
深かったです。患者さんとの会話や問診から主訴や口腔状態、生活環境等をお聞きするのみならず、
来院方法や来院時のご様子から予備力までをも読み取っていく、これが医療における安全に繋がって
いくのだなと感じました。また、「歯科」という言葉だけにとどまらず、患者さんの全身状態を
『知る』ことが、「早期発見・早期治療」などといった患者さんの安心を引き出すことにもなるのでは
と改めて考えさせられました。
衛生士 河本