*局所麻酔薬…身体の一部の感覚、特に痛みの喪失を目的として表面塗布あるいは
局所の注射によって投与される。
全身麻酔下、鎮静化でも、局所麻酔は必要。
◎術部のpH、体温、服用薬等が局所麻酔薬の効きを左右する。
(→局所麻酔薬の量は、人によって、あるいは時と場合によって異なる)
薬物は体内に入ると「吸収」「体内分布」「代謝」「排泄」が起こる。
⇒効きやすいか否か(効果が発現するまでに時間がかかるか否か)は「吸収」がかかわ
っており、薬物の性質(酸解離定数:pka)とヒトの組織の性質(pH)に左右される。
通常ヒトの組織(健康な場合)は、pHが7.4付近(中性)で保たれており、一方局所麻酔薬
はそのほとんどが弱い塩基(pka)。種類にもよるが、リドカインでは注射すると25%ず
つが遊離塩基(イオンに変換されない)になり、この遊離塩基が細胞膜を通過して、局所
麻酔薬の効果として発現していく。
★ex)リドカインが1000分子あったとした場合
健康な組織では細胞膜を通過できるのは25%なので1000分子のうち25%
(250分子)が効果を発揮できる!
残りの750分子はその25%ごとに、また膜を通過しやすい形になって細胞に
到達し効果を発揮することになる。750分子の25%(約180分子)が膜を通過、
そして残りの約570分子がまた膜を通過して効き目を発揮。
⇒このような経過を経ていくため時間がかかる。
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組織に炎症があると、その部位は酸性に傾く。
すると、その部位では局所麻酔薬が細胞膜を通過するのに中性のときよりも時間
がかかり、効くのにも時間がかかる!
※吸収を左右するものはこの他にも、体温や組織構造、年齢、器質的疾患の有無、
進行性の疾患で服用している薬物の分子形態などが挙げられる。
◎炎症により酸性化するのは体の正常な変化
・急性炎症や慢性炎症でpHが低くなる(酸性になる)ことは、通常の生理学的病理的
変化。 ex)リウマチ性関節炎…関節液のpH6.7~7.4
充実性腫瘍(悪性の卵巣のう腫)…pH5.8~7.6
・炎症の酸性化には、細菌の代謝によってできた脂肪酸や低酸素が関係している。
炎症において重要な役目を果たす好中球やマクロファージもかかわっている。
→好中球やマクロファージの浸潤で産生される乳酸によって酸性に傾く。
☆このようにして起きる酸性化は急性炎症をさらに激しくするという説もあるが、
免疫細胞の遺伝子発現や機能に影響することが知られており、酸性の環境下では
炎症を抑える遺伝子が活性するという報告もある。
⇒このような酸性化の特性を利用して、炎症に関与している疾患を解決して
いこうとする遺伝子研究が現在進められている。
◎局所麻酔薬投与にあたっての重要事項
①使用する局所麻酔薬の管理
⇒使用期限、保存方法を確認する。
直射日光が当たったり、気温の変動が激しい場所での保存はしない。
使用期限内であっても他の薬剤と同じく変質をきたす場合がある。
カートリッジの液体の色が濁っていたり変色していた場合は大変危険。
常にチェックする習慣をつけておく。
②局所麻酔薬の投与量の確認
⇒どのくらい使ったかを常に確認してメモする。
手術が終わるまでトレーなどの決まった場所に使用済みのカートリッジを置き
常に術者が毒性や使用限界量を計算しやすいようにする。
③服用薬の確認
⇒局所麻酔薬と薬物相互関係のある薬には注意する。
④全身疾患の確認
⇒局所麻酔薬の種類によっては、禁忌となる全身疾患の患者さんがいるため
注意する。
ex)高血圧症…エピネフリン(血管収縮薬)を含まないものか低濃度を選ぶ
腎臓疾患…リドカインなど腎毒性のないものを選ぶ
《感想・考察》
局所麻酔薬は、歯科診療に欠くことのできない重要なものです。麻酔薬の投与というと、歯科医師の領域になると考えられがちですが、私たち衛生士にも注意すべき事項が多々あることを再認識しました。
☆痛みの閾値について
精神状態によっても上がったり下がったりする
→不安や悩みなどのストレスによって下がる、血流の滞りによって下がる
(下がる=痛みを感じやすくなる)
⇒局所麻酔薬投与の際は、なるべく患者さんにリラックスしてもらい、
余分な力を抜いてもらう方が痛みを感じにくい!
意識が他のほうへ向いていても、痛みの閾値は下がるそうです。
患者さんに一番近い位置にいる私たち衛生士が、声かけなどコミュニケーションをとることも効果的なのではないかと思いました。 衛生士 西内